逐条点検 日本国憲法(東京新聞)

暮らしそのもの『国の基本』全103条


<第67条> 首相指名 公選には賛否

内閣総理大臣は、国会議員の中から国会の議決で、これを指名する。この指名は、他のすべての案件に先だつて、これを行う。
衆議院参議院とが異なつた指名の議決をした場合に、法律の定めるところにより、両議院の協議会を開いても意見が一致しないとき、または衆議院が指名の議決をした後、国会休会中の期間を除いて十日以内に、参議院が、指名の議決をしないときは、衆議院の議決を国会の議決とする。

国会の指名によって、首相を決める議院内閣制の基本を定めた条文。
指名の手続きが定められている衆参両院それぞれの規則によると、議決は記名投票で行われ、過半数を得た議員が首相になる。一回目の投票で過半数を得る議員がいなければ、上位二人による決選投票を行い、今度は多数を得た方が首相になる仕組みだ。過去に例はないが、決選投票で二人の得票が全く同数なら、くじ引きで首相が選ばれる。衆参どちらの議員でも首相になれるが、今のところ、参院議員の首相は誕生していない。
首相の指名は、参院よりも衆院の議決が優先される一つで、これが二項に盛り込まれている。
衆院参院の指名が異なったケースは、過去に三度ある。最近では一九九八年、直前の参院選自民党が大敗した結果、野党が過半数を占める参院は、菅直人民主党代表(当時)を首相に指名。六七条の規定により、衆院で指名された小渕恵三自民党総裁(同)が首相に就任した。
首相の指名手続きに関しては、より民意を反映させる仕組みとして、国民が直接首相を選ぶ首相公選制を求める声もある。小泉純一郎首相、中曽根康弘元首相らが公選制導入論者として有名。小泉内閣では二〇〇二年、「首相公選制を考える懇談会」が三つの具体案を報告書にまとめた。
しかし、大統領制に近い制度となるため、天皇制との関係が問題になるほか、政党政治の否定につながるとの慎重論も強い。衆院憲法調査会は〇一年九月、首相公選制を採っているイスラエルを視察したが、現地の政情不安を目の当たりにして、導入論はしぼんでいった。同調査会の最終報告書でも「導入すべきでないとの意見が多」とされた。
ただ、中曽根試案では、衆院選の際、政党に首相候補の明示を義務付けることで、「実質的な首相公選制」の導入を打ち出している。