逐条点検 日本国憲法(東京新聞)

暮らしそのもの『国の基本』全103条


<第68条> 不文律排した『小泉人事』

内閣総理大臣は、国務大臣を任命する。ただし、その過半数は、国会議員の中から選ばれなければならない。
内閣総理大臣は、任意に国務大臣を罷免することができる。

国会議員は、当選回数をある程度重ねると、内閣改造の時期には首相官邸からの連絡を待って、そわそわする。
これは、六八条で、閣僚の任免権を首相が握っているからだ。旧憲法では、首相も閣僚も天皇が任命していたのと比べると、首相の人事権は格段に強化された。
とはいえ、長い間、首相の人事権には制約があった。自民党に、憲法以上の「不文律」があったからだ。ほとんどのポストは、派閥から提出されたリストに沿って、年功序列、派閥均衡で決まっていった。首相が、本当の意味での人事権を行使するケースは、多くなかったのだ。
このような人事は、憲法六八条の趣旨に沿っているとは言い難い。
これに風穴を開けたのが、小泉純一郎首相だ。派閥の意向を“無視”して、若手や女性を積極的に抜てき。民間人も次々に登用した。
小泉首相改憲論者だが、六八条に限っては、憲法の精神に忠実に沿っていることになる。
任免の「免」の方はどうか。問題発言などで閣僚が任期途中に辞める例はしばしばあるが、大半は「自発的辞任」の形を取るので、罷免は過去三例しかない。二〇〇二年、小泉首相田中真紀子外相を更迭した時も、形式上は「辞任」だった。小泉首相は、こちらでは六八条の権利を行使しなかったことになる。
閣僚の過半数が国会議員と定められているのは、内閣が議会に対して国政の連帯責任を負う議院内閣制を採用しているためだ。
衆院憲法調査会などでは、「閣僚はすべて国会議員から選ぶべきだ」という意見がしばしば出る。こうした意見には、「議院内閣制を徹底させる」などの理由が付けられるが、本音は「閣僚になるチャンスは少しでも多い方がいい」という議員心理が働いているのは言うまでもない。