逐条点検 日本国憲法(東京新聞)

暮らしそのもの『国の基本』全103条


<第70条> 『不測の事態』対応に課題

内閣総理大臣が欠けたとき、または衆議院議員総選挙の後に初めて国会の召集があつたときは、内閣は、総辞職をしなければならない。

六九条では、内閣不信任決議案が可決されたときの内閣総辞職のケースが規定されているが、七〇条では、内閣が総辞職しなければならない、あと二つの例を定めている。
二〇〇〇年四月二日、小渕恵三首相が首相公邸で倒れ、意識不明に陥った。小渕氏は回復することなく死去したが、この前後に、国会では「七〇条論争」が起きた。
小渕氏は病床で「万事よろしく頼む」と、青木幹雄官房長官(当時)に指示したとされる。青木氏はこれを受けて、内閣法九条に基づく首相臨時代理に就任した。そして、首相の意識不明で回復が見込めない状態を、憲法七〇条の「首相が欠けた」ケースにあたると判断。同四日、総辞職に踏み切った。
しかし、これに野党側は「小渕氏の言葉は、首相臨時代理就任の指示を意味しているのか」「意識不明が、『首相が欠けた』ときに相当するのか」と、憲法上の疑問を投げかけたのだ。
こうした教訓から、中曽根試案では、新たに「首相の臨時代理」の条文を加え、小渕氏のような不測の事態が起きたときも、混乱が起きないように工夫した。
このほか、五五条に基づく議員資格争訟で首相が議員資格を失ったとき、五八条二項に基づいて除名されたとき、さらには選挙で落選して国会で議席を失ったとき、失跡、亡命した場合なども「欠けた」ことになるが、さすがにこのような例は今までない。
首相の退陣は実際のところ、政局の混乱や選挙の敗北などにより、自ら辞意を表明する場合が最も多い。中には、「元旦のうららかな青空を見て決断した」と、一九九六年正月明けに突然辞任を表明した村山富市首相のようなケースもあり、最高権力者である首相が「欠ける」ときは、常にドラマが付きまとう。
衆院選後にも総辞職を定めているのは、首相を指名した衆院議員が改選されることで、新たに国会の信任を受ける必要があるという判断からだ。