逐条点検 日本国憲法(東京新聞)

暮らしそのもの『国の基本』全103条


<第71条> 政治的空白避ける目的

前二条の場合には、内閣は、あらたに内閣総理大臣が任命されるまで引き続きその職務を行う。

内閣が総辞職してから新しい首相が任命されるまでの間に、一国のトップ不在という政治的空白を生じさせないための条文。改憲論議の中でほとんど話題に上っていない。
「前二条の場合」を復習すると、(1)衆院不信任決議案を可決するか、信任決議案を否決し、十日以内に衆院を解散しないとき(2)首相が欠けたとき(3)衆院選後に国会が召集されたとき−の三パターン。
新しい内閣が構成されるまで前政権が職務を続けるのは、当たり前の措置のようにも受け取れる。だが、戦前は、任免権を持つ天皇が新内閣の任命と現内閣の総辞職を同時に行うのが慣例だったので、旧憲法にはこのような規定はなかった。
総辞職が決まれば、内閣は求心力を完全に失い、「死に体」となる。ところで、その「死に体内閣」が、最後に一花咲かせようとして新たな政策を打ち出したり、やけっぱちで衆院を解散したりできるのだろうか。
学説では、「総辞職が決まった内閣は国民に責任を取ることができないので、職務は行政の継続性を確保するための日常的な事務に限られる」と解釈されている。ただ、憲法や関連法でもこのような条文はないので、今後、議論が生まれる可能性はある。
「死に体内閣」がズルズルと職務を続ければ、国政が停滞するので、早く次の内閣を発足させるのが通例だ。ほとんどの場合、総辞職決定の日か、数日後には次の首相が任命されている。しかし、大幅に遅れたこともあった。
最も間隔が空いたのは、一九八〇年の大平正芳内閣の総辞職から鈴木善幸内閣発足までの間。大平首相が六月十二日に死去して総辞職となったが、衆院選中だったため、新内閣の発足は選挙後の七月十七日にずれ込んだ。この間に開かれたベネチア・サミットは、首相が出席しなかった唯一のサミットとなった。