逐条点検 日本国憲法(東京新聞)

暮らしそのもの『国の基本』全103条


<第72条> 多国籍軍参加の根拠に?

内閣総理大臣は、内閣を代表して議案を国会に提出し、一般国務および外交関係について国会に報告し、ならびに行政各部を指揮監督する。

首相の主な権限を定めた条文。議案の提出についてのくだりは、サラリと書いてあるだけだが、「唯一の立法機関」と定められた国会よりも、圧倒的に多くの法案が内閣から提出されているのは、皮肉な話だ。
よく議論になるのは、「指揮監督」の部分。首相の指導力で、縦割り行政を打破しようという文言だ。
これに関しては、内閣法の六条に「閣議の方針に基いて指揮監督する」などという規定があることから、首相の指揮監督権は、実際には限定的なものにとどまるという解釈もある。
このため、参院憲法調査会では、「内閣を代表してではなく、首相個人として指揮監督できるよう憲法に明記すべきだ」との議論も出た。
注目したいのは、この条文に「外交関係」が含まれている点。中曽根康弘元首相は一九九〇年代後半、この部分と、憲法七三条で内閣の事務に「外交関係の処理」が含まれていることから、自衛隊多国籍軍に参加できる根拠と主張した。
理屈はこうだ。七二、七三条によって、国の行政権の中に「外交権」が含まれる。外交権には、国際平和の維持や国際協力なども含まれるから、国際協調のための多国籍軍への参加も、当然、合憲というわけだ。
小泉首相が、世論の反対を押し切ってイラクへの自衛隊派遣を決めた際、「自国のことのみに専念して他国を無視してはならない」との憲法前文を根拠として議論を呼んだが、中曽根氏はこれとは別に、七二、七三条を根拠としたことになる。
多国籍軍参加などの問題は、九条との兼ね合いで語られることが圧倒的に多いだけに、「国際協力は外交権の範囲内」という考えは実にユニークだ。ただ、こうした見方は、あくまで少数派。中曽根氏も、最近はあまりこうした説を口にしていないようだ。