逐条点検 日本国憲法(東京新聞)

暮らしそのもの『国の基本』全103条


<第73条> 国会承認得ない条約も

内閣は、他の一般行政事務の外、左の事務を行ふ。
一 法律を誠実に執行し、国務を総理すること。
二 外交関係を処理すること。
三 条約を締結すること。ただし、事前に、時宜によつては事後に、国会の承認を経ることを必要とする。
四 法律の定める基準に従い、官吏に関する事務を掌理すること。
五 予算を作成して国会に提出すること。
六 この憲法および法律の規定を実施するために、政令を制定すること。ただし、政令には、特にその法律の委任がある場合を除いては、罰則を設けることができない。
七 大赦、特赦、減刑刑の執行の免除および復権を決定すること。

七二条に続き、内閣の権限を定めている。この中で、よく議論になるのは、三号の「条約の締結」。条約は、文書による国家間の合意のこと。内閣で締結したものを国会で承認するように定めたのは、条約にも国民の代表の関与が必要との考えからだ。
ところが、実際は、国会承認を得ない条約もある。政府は一九七四年の統一見解で、国会承認が必要な条約を、新たな立法措置や財政支出が必要、あるいは政治的に重要なものに限った。
例えば、首相が、ある国の首脳と共同声明を出したとする。共同声明も、広い意味での条約だ。そこに援助額が書き込まれていたとしても、既に成立済みの予算の範囲内で対応できれば、国会の承認は必要ない。
ただ、国会承認が必要かどうかの判断を、政府が行う現状には異論もある。社民党土井たか子前党首は衆院憲法調査会で、「国会承認の要否の判断権は、国会が持つべきだ」と主張している。
憲法と条約の関係」についての問題もある。国家最高の法規範と国際合意は、どちらも大切だが、締結した条約が憲法に反したら、どちらが優先されるのか。議論は、今も結論は出ていない。
六号の「政令の制定」についても、見直し論がある。自民党憲法起草委の「内閣」小委員会では、この号の一部を削除すべきだという意見が出た。
政令は、法律の実施のために必要な規則を定めた政府が出す文書。しかし、歯止めなく内閣が政令を出せることになると、法律の内容を飛び越えたような政令が連発され、立法権が侵害される恐れがある。
この条に関しては、冒頭の「一般行政事務」という言葉が、あいまいで分かりにくいという意見もある。
最後に、七二、七三条以外に憲法が定める内閣の権能をまとめておくと、(1)天皇の国事行為に対する助言と承認(三条、七条)(2)最高裁判所長官の指名(六条二項)(3)国会の臨時会の召集(五三条)(4)予備費の支出(八七条)−などがある。