逐条点検 日本国憲法(東京新聞)

暮らしそのもの『国の基本』全103条


<第74条> 注目度低い?最後の署名

法律および政令には、すべて主任の国務大臣が署名し、内閣総理大臣連署することを必要とする。

国会で成立した法律は、直ちには公布されない。この条文に基づいて、担当の閣僚と首相の署名が必要となる。
「法律」「署名」というと、閣議決定のことを思い浮かべる人が多いだろう。法案は国会提出の際、閣議で首相と全閣僚が花押と呼ばれる簡略な署名を行う。これが閣議決定だ。
七四条で定められているのは、これとは違い、国会で成立後に行われるもの。つまり、法律は「入り」と「出」で閣僚が署名することになる。こう考えると、閣僚たちは閣議で、署名ばかりしているように感じられる。民主党菅直人前代表は、「閣議はサイン会」と痛烈に皮肉っているが、この指摘もあながち間違いではない。
さて、ここで問題。今、注目の郵政民営化関連法が成立した時、署名する閣僚はだれか。大半の人は、竹中平蔵郵政民営化担当相と答えるだろう。だが、それは間違い。署名する閣僚は、最終的には内閣法制局が決めるが、「内閣官房の長」の小泉首相が署名することになるため、内閣府特命担当相の竹中氏は署名の必要がないと判断されるのだ。
竹中氏は今後の国会論戦で、自民党反対派や野党から袋だたきに遭いながら答弁を続けることになるが、成立したら、憲法上は「担当」になれない。少し損な役回りだ。
国会提出の必須条件となる閣議決定と違い、政治的にヤマを越えた後に行われる七四条に基づく署名は、国民の注目度は低い。学説でも、もし何かのトラブルで署名が行われなくても、法律は無効にならないという見方が強い。
閣議決定憲法規定がなく、内閣法で定められているだけなのに、注目度の低い方が憲法で明記されていることは、意外な印象が残る。
そういう意味合いもあり、自民党若手議員有志がつくった「未来憲法」では、七四条は完全に削除されている。
しかし、この条文はまったく意味がないわけではない。七四条に基づく署名は、閣僚による最終確認の場であり、その意味は決して軽くない。