逐条点検 日本国憲法(東京新聞)

暮らしそのもの『国の基本』全103条


<第82条> 広がる裁判の非公開

裁判の対審および判決は、公開法廷でこれを行ふ。
裁判所が、裁判官の全員一致で、公の秩序または善良の風俗を害するおそれがあると決した場合には、対審は、公開しないでこれを行ふことができる。ただし、政治犯罪、出版に関する犯罪またはこの憲法第三章で保障する国民の権利が問題となつてゐる事件の対審は、常にこれを公開しなければならない。

以前、二三条が「五・七・五」の俳句になっていると紹介した。その際、「憲法条文には短歌もある」と予告したが、今回の八二条一項は字余り気味ながら「五・七・五・七・七」になっている。
この条では、「裁判の公開」という司法の重要な原則が示されている。裁判を国民の監視下に置くことで、不正な裁判を防ぐためだ。
ただし、実際には傍聴席には限りがあり、希望者の多い裁判では抽選が行われる。「公開」なら、テレビ中継を認めてもよさそうだが、許されるのは開廷前の撮影のみ。裁判のもようを伝えるのにイラストが用いられているのは、そのためだ。
これらの措置は、裁判を公開する目的が裁判の公正さを保つためで、当事者を大衆の目にさらすためではないからだ。
さらに、二項では、社会に悪影響を及ぼす恐れがある場合は非公開にできるとしている。
非加熱製剤でエイズウイルス(HIV)に感染させた責任を求めた東京HIV訴訟では、原告のプライバシー保護の観点から、原告への尋問は非公開で行われた。
また、コンピューターへの不正アクセスで個人情報を盗んだ事件の裁判で、情報管理会社の役員が証人に呼ばれたが、システムの弱点が公になると模倣犯が出るとして、非公開での証言が認められた。特許などの企業秘密に配慮し非公開を求める議論もある。
価値観が多様化し、憲法に「プライバシー権」を明記しようという主張が高まる中、非公開裁判の領域は広がる傾向にある。裁判の公開とプライバシー保護の両立は、非常に難しい問題だ。
政治犯表現の自由、国民の権利をめぐる裁判は、その重要性を考慮して、「絶対公開」が義務付けられている。