逐条点検 日本国憲法(東京新聞)

暮らしそのもの『国の基本』全103条


<第87条> 例外で認めた『へそくり』

予見し難い予算の不足に充てるため、国会の議決に基づいて予備費を設け、内閣の責任でこれを支出することができる。
すべて予備費の支出については、内閣は、事後に国会の承諾を得なければならない。

予算は、使い道を決めた上で編成するのが大原則。しかし、地震や台風などの突発事態が起きた時などは、予算の編成をしていては手遅れになってしまう。そんな時のために、憲法では「予備費」という制度を認めている。
国のお金を使うには国会の議決が必要だということは、八五条の回で紹介した。予備費は、その例外規定ということになり、使い道は内閣に委ねられている。ただし、予備費の性格に適さない支出がないように、国会の事後承認が必要になる。
予備費の規模は近年、年間三千五百億円と相場が決まっている。一般会計予算に占める割合を、年収五百万円世帯の家計に当てはめると、約二万一千三百円に相当する。ちょっと困った時のための「へそくり」のような規模といえるだろう。
計上された予備費を、一年で使い切る必要はない。
予備費は、あくまで緊急避難的な措置なので、大規模な支出が必要となった場合は、補正予算案を組んで、国会の議決を経るのが筋だ。このため、大災害が起きると、最初の人命救助や人道的支援は予備費を使い、その後の本格的な復興は補正予算を組むという段取りになることが多い。
最近、多額の予備費を利用したものは、二〇〇一年度のハンセン病患者への補償費。この時は、約六百八十三億円を支出した。
ちなみに、石油ショック後の一九七六年度予算に、予見しにくい経済情勢の変動に備えるためとして、「公共事業等予備費」千五百億円が戦後初めて計上され、その後も数千億円規模の同予備費が度々、盛り込まれてきた。
これは、予備費の名を借りた「つかみ金」の色彩が強く、八五条の精神にもそぐわないと批判にさらされてきた。だが、「公共事業等予備費」は、財政再建を目指す小泉内閣初の予算編成となった〇二年度以降は計上されていない。