逐条点検 日本国憲法(東京新聞)

暮らしそのもの『国の基本』全103条


<第89条> 私学助成めぐり改正論

公金その他の公の財産は、宗教上の組織もしくは団体の使用、便益もしくは維持のため、または公の支配に属しない慈善、教育もしくは博愛の事業に対し、これを支出し、またはその利用に供してはならない。

この条文は、九条ほど目立たないが、改憲問題の焦点となっている。
前段では、宗教団体などへの国の財政援助を禁じ、二〇条で紹介した政教分離原則を財政面から裏付けている。この部分は、特に問題視されていない。
議論となっているのは、後段の「公の支配に属さない教育」にも、国の財政援助を禁じている部分。素直に読むと、私立学校に国が助成すると違憲であるように見える。
ポイントは「公の支配」の解釈。私立学校が「公の支配」に属しているなら、私学助成は合憲で、属していなければ違憲ということになる。
現在、私学助成を行っている政府は、言うまでもなく「合憲」の立場。答弁では、私立学校が学校教育法などの法的規制を受けているとして、「これだけの規制を行っておれば、これは公の支配に属している」(一九六九年、当時の文部省管理局長)と解釈している。
私立学校への公金支出の是非は、裁判でも何度か争われたが、いずれも政府答弁と同様の論理で合憲と判断された。
しかし、この解釈には、異論が少なくない。「公の支配」について、「国や地方自治体が関係事業の予算を定め、その執行を監督し、人事にも関与するような権限を持たなければならない」という代表的な学説で厳格に判断すると、今のような「微温的」監督だけでは「公の支配」の要件を満たしていない、というのが「違憲論」の筋道だ。
もっとも、違憲論者たちは、私学助成がダメだと主張しているのではない。すっきり私学助成できるように、八九条を書き直すべきだという考えだ。
このため、国会の論議では、自民党などの改憲勢力が私学助成の違憲論を訴えて改憲を主張し、共産、社民両党の護憲勢力が合憲論を主張するという図式になっている。
護憲勢力が衰退した今、国会では改正論が多数派となってきた。衆院憲法調査会の最終報告書でも、「八九条を改正し、私学助成ができることを憲法上明確にすべきであるとの意見が多数」と明記された。