逐条点検 日本国憲法(東京新聞)

暮らしそのもの『国の基本』全103条


<第92条> 抽象的な地方自治規定

地方公共団体の組織および運営に関する事項は、地方自治の本旨に基づいて、法律でこれを定める。

この条から、「地方自治」に関する条文に入る。
憲法の下では、地方自治に関する規定は全くなかった。明治初期、福沢諭吉が「分権論」を著すなど、かなり早い時期から知識人の間では、地方分権の重要性を主張する意見はあった。しかし、欧米に追いつけ、追い越せという「富国強兵、殖産興業」路線を採る当時の日本政府は、あえて中央集権にかじを切ったのだろう。
この影響は、今の憲法にも残る。地方分権の章が設けられ、衆院憲法調査会の最終報告でも「戦後の地方自治の発展に大きな役割を果たしてきた」と評価された。だが、この項目に関する条文は、わずか四条。最近の分権意識の高まりに対応できる内容ではない。
「物足りなさ」の象徴が、地方自治の原則を示した、この九二条。「地方自治の本旨」という表現自体が抽象的で分かりにくく、国と地方自治体の具体的な役割分担が明記されていない。
憲法地方自治規定への不満は、当然のように、国よりも地方の方が強い。すでに、岐阜県は二〇〇一年四月、梶原拓知事(当時)の指示で、自治体の権限を強化する規定を盛り込んだ独自の憲法改正試案を公表している。
岐阜県の試案は、「地域のことは地域で決める」原則を徹底させるため、住民に身近な行政は基礎的自治体(市町村)が所管。課税自主権や、条例制定権の拡大も認めた。自治体間の相互調整など、市町村でできないことを広域的自治体が行うとしており、国がやることは必然的に外交、国防、通貨発行など十六項目に限られる。
この案は、道州制の導入を前提としている。「広域的自治体」も、道州制導入後の「州」をイメージしている。
さて、国会の方の論議はどうだろうか。
衆院憲法調査会でも、道州制の導入に積極的な意見も多かったが、「住民の声が反映されにくくなる」などと、否定的な意見もあった。政党レベルでも、民主党道州制を導入する方向で議論が進んでいるが、自民党の新憲法起草委員会「地方自治」小委員会がまとめた要綱に、「道州制」の文言はない。
昨年の「三位一体改革」の時の議論を思い出すまでもなく、中央の国会議員や官僚は、地方に権限、税源を譲るのに抵抗感が強い。おまけに、道州制については「市町村合併に続き、県合併につながるような制度になると、自分たちの身分がどうなるか分からない」と思う地方議員も、導入には消極的。このため、憲法の中に盛り込まれるのは、かなり難しそうだ。
先月、全国知事会憲法問題特別委員会を設置。地方の立場から、憲法問題に取り組む陣立てを整えた。初会合の席上、神田真秋愛知県知事は「地方の自主性、自立性を明確にするために、前文に地方自治地方分権という文言をはっきり盛り込むべきだ」と宣言。かなり大胆な提言を行う構えだ。
憲法をめぐる「国対地方」のせめぎ合いは、次第にヒートアップしてきた。