逐条点検 日本国憲法(東京新聞)

暮らしそのもの『国の基本』全103条


<第95条> 『開かずの扉』住民投票

一の地方公共団体のみに適用される特別法は、法律の定めるところにより、その地方公共団体の住民の投票においてその過半数の同意を得なければ、国会は、これを制定することができない。

国会が、特定の都道府県、市町村だけに関係するような「地方自治特別法」を制定する時、その自治体で住民投票を行って同意を得る必要がある。国会の決定に対し、国民が直接投票で賛否を示す権利を定めたのは、現憲法では九五条と、憲法改正を問う国民投票を規定した九六条だけ。それだけに、この条文は非常に重要な規定だ。
ところが、九五条に基づく住民投票は、一九四九−五一年の三年間に、旧軍港都市転換法など十五件があった後、パタリと止まっている。
九六条に基づく改憲を問う国民投票は、まだ一度も行われていないから、結局、国会の決定に対して主権者が直接、賛否の意思を伝える道は、五十年以上も閉ざされていることになる。
九七年の米軍用地特別措置法改正の際、実態は沖縄県にしか適用されない法律でありながら、政府は「全国に適用可能」という立場を取ったため、住民投票は行われなかった。共産、社民両党は「九五条がないがしろにされた」と猛反発した。
住民投票というと、近年、市町村合併などを問う目的で、かなり行われている。これらは、各自治体が条例を制定して実施しており、九五条に基づく投票とは違う。だから、その結果には法的拘束力はなく、首長や議会がその結果を尊重しないこともある。
九五条に基づく住民投票が行われるとしたら、どんなイメージだろうか。長野県の田中康夫知事は、県名を「信州」に変更することを提言したことがある。県名の変更は、特別法の制定が必要になるため、実現させるには、まず国会が法改正して、それを問う「県民投票」を行うことになる。
住民投票は、(1)政策の一貫性が保ちにくい(2)イエス、ノーの二者択一で問えない政策もある−などの指摘がある。しかし、主権者が直接声を上げる門戸は、少しでも開けておく必要があるのはいうまでもない。今や、「開かずの扉」になっている九五条の意義を、もう一度見直す時に来ているのではないだろうか。
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さて今回で「地方自治」の章が終了。次回は九六条の改正条項について紹介する。二月から長期連載してきた「逐条点検」も、残すところあと五回となった。