逐条点検 日本国憲法(東京新聞)

暮らしそのもの『国の基本』全103条


<第99条> 権力側の順守義務明記

天皇または摂政および国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ。

この条文の特徴は天皇と公務員に憲法順守義務を課し、国民には課していない点だ。憲法は、国家権力から国民の権利・自由を守る目的で制定されたのだから、権力側はこれを尊重し、擁護しなければならないことを明確にした。
国民に順守義務が課せられていないからといっても、守らなくていいわけではない。前文で、憲法は日本国民が制定したとうたっているのだから、国民もまた、憲法を尊重しなければならないのは当然のことだ。
公務員の順守義務規定は、「道徳的・倫理的」な義務と理解されている。だが、国家公務員法地方公務員法では、憲法や政府を暴力で破壊することを主張する団体に加入している場合は、公務員にはなれないと定めている。これは、九九条の精神を具体化したものと受け止められる。
ひと昔前までは、閣僚が改憲発言をすると、「九九条違反」と追及され、辞任に追い込まれることが少なくなかった。最近では一九九九年一月、当時の中村正三郎法相が「日本人は軍隊も持てない憲法を作られ、改正できずにもがいている」などと発言し、同三月に辞任した。
しかし、今は、小泉首相自衛隊について「実質的には軍隊だ」と国会答弁するなど憲法を逸脱する発言が飛び出し、閣僚も堂々と改憲論を展開することが珍しくない。そして、こうした「不規則発言」は、さほど問題視されなくなった。国会内の九割以上を占める自民、公明、民主の三党が改憲にかじを切り、国民の間でも改憲容認論過半数を占めるようになった時代の変化を反映しているのだろう。
自民党内の議論では、九九条について「公務員の憲法順守義務は当たり前なので、わざわざ書く必要があるのか」という意見も出ている。だが、憲法は国家権力から国民を守るための規範だという原則を特記する意義は、軽視すべきではないだろう。