「井筒和幸さんからあなたへ - 隣のカノジョに教えてやって この世の狂気を」(朝日新聞2005年9月17日(土)朝刊)

井筒和幸さんからあなたへ - 隣のカノジョに教えてやって この世の狂気を」(朝日新聞2005年9月17日(土)朝刊)

毎度ご贔屓(ひいき)あずかりましておおきに、ですが、ボクが撮り綴ってきた映画を見たこともない10代のアンタたちが何百万人もウジャウジャいます、ボクは「踊る大捜査」や「セカチュー」や「ナナ」などをお届けしてきた監督でもないし、はたまた文部科学大臣賞の映画を作ったこともないからなんですが、そんなウジャウジャいるアンタたちにこの際、伝言です。
どっちもこっちも大人たちだけ空騒ぎの選挙は終わりましたが、この先世の中がどうなろうとも「戦争」にだけは、いくらお金を積まれてもアンタたちは行かないで欲しいんです。ニッポンが「戦争」に巻きこまれるごとがあるかないかは知りませんが、ますますキナ臭い世の中になりそうだなぁと、監督なりの直感で思うからです。
何処(どこ)か外国の大地か砂漠で、もしも「戦争」が起こされて、このニッポンが助太刀(すけだち)に行くことになっても、そして、もしもニッポンに自衛軍という軍人組織や、軍人専門学校まで作られることになっても、そんな時は近所の電柱に鎖でカラダを括(くく)りつけてでもイヤだイヤだとダダをこねて、1㌔四方に聞こえるくらいに泣き叫んで欲しいんです。お父さんから「勇気のない奴(やつ)だ、ったく」と罵(のの)られても、お母さんから「アルバイトもしないで遊んでるよりマシよ」と優しく肩を叩(たた)かれても、耐えて欲しいです。
アメリカには待遇のいい「海兵隊」という就職先があるし、かっこいい革ジャンが着られる空軍もあるし、韓国にも時給のいい軍隊があり、どんな金持ちの家の息子でも18歳なら兵役につく義務もあって、いつ、どこへ行かされるかわかりません。死んで輸送されて帰されることもあります。死にに行くどころか見知らぬ人を殺しに行く恐ろしい仕事でもあります。仕事だと思って世界中から送られて来たアンタらと同い年の若い人が明日も何人か死んでいき、そして、異邦人を殺します。
いったい誰と誰と誰がそんなことをさせているのか監督も映画や本で勉強してるんですが、よく分かりません。なんという21世紀なんだと、ただ昨日も今日も絶句しています。どうか心して生きてください。映画をみて「カワイー」とかいってばかりいる横の座席のカノジョにも教えてやって下さい、この世の狂気を。後生だから頼んます。