どこが違う 自民党憲法草案「▼1 日程優先議論は生煮え」(東京新聞)

不思議な空気が漂う中での自民党憲法草案の決定だ。
衆院で三百議席近くを持つ自民党。この政党が、本気で改憲に踏み出す姿勢を見せたことは、政界、国民に強いインパクトを与え、憲法論議は、間違いなく新しい段階に移った。
その一方で、条文を読むと「生煮え感」が残る。例えば、前文。よく言えば実務的で簡潔だが、「中学生がそらんじられるような美しい文章」を目指した当初の印象とは異質のものになった。党内からは「どこの国の憲法なのか分からない」という声が漏れる。
九条は「自衛軍」を明記し、平和憲法の神髄である二項の「戦力不保持」は姿を消した。一方、戦争放棄をうたった一項は、文言修正の議論もあったが、結局、「高度の政治判断」で現行の条文通りとなった。
党内議論が不十分のまま見切り発車となった最大の理由は、結党五十年の節目に間に合わせようとしたからだろう。
ことし初夏以降の「郵政政局」で党内論議が事実上凍結になった影響も大きい。予想外の衆院解散・総選挙という激動の中、党内の「憲法熱」は十の小委員会ごとに議論を行っていた春先と比べて、明らかに冷めている。全国で開かれる予定だったタウンミーティングは七月に北海道で一度行われただけだった。
国の根幹にかかわる問題の議論が、党の日程や政局に左右されたとしたら、これは本末転倒だ。
圧倒的な数を持つ政党がつくった草案に向ける外の熱い視線と、未成熟な内部の議論。その不釣り合いが、この国の憲法論議の前途を見えにくくしている。
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自民党の新憲法草案は具体的にどの部分が変わり、どんな論点があり、どこが問題なのか。この連載で、ポイント別に点検していく。