どこが違う 自民党憲法草案「▼3 <9条>自衛軍見えぬ活動範囲」(東京新聞)

自民党の新憲法草案で、現行憲法から大幅に変わったのが九条。平和主義を定めた九条一項は踏襲する一方、「自衛軍」の保持を盛り込んだことが主なポイントだ。
試案段階では、一項も全面的に改める予定だった。二次試案の一項は「恒久の国際平和を実現するという平和主義の理念を崇高なものと認め」「戦争その他の武力の行使又は武力による威嚇を永久に行わない」ことを現行一項の二倍以上の文字数で宣言していた。
だが、表現を簡素にする意味からも、最終的に現行通りとした。この決断は、小泉純一郎首相自身の高度な政治判断によるものだった。
平和憲法の根幹のように語られる九条一項だが、実は、このような不戦の宣言は日本特有のものではない。
同様の規定は「国際紛争解決のための戦争」を否定した一九二八年の「パリ不戦条約」や、「武力による威嚇又は武力の行使」を慎むとした四五年の国際連合憲章、さらには、フィリピンやイタリア、ハンガリーアゼルバイジャン憲法にも見ることができる。
その点、現行憲法を「平和憲法」として特徴づけているのは「戦力不保持」を定めた九条二項だ。だが、草案には、その痕跡すらない。
草案の九条の二では「我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全を確保するため」に「自衛軍を保持する」と定めた。
この「自衛軍」の活動について、自民党集団的自衛権の行使も含むとしている。自国が直接攻撃されなくても、同盟国への攻撃に反撃する集団的自衛権は、現行九条の政府解釈で日本は権利を持つが、行使はできないとされてきた。米軍への協力で自衛隊が制約を受けているのも、この解釈に基づいている。
この縛りを解くことで、例えば、日本周辺で米軍が軍事作戦を展開する際、日本の護衛艦が米空母の護衛に当たることも可能となる。実際、北朝鮮台湾海峡問題など、それが現実となる火種はくすぶっている。
さらに、草案では「国際社会の平和と安全を確保」するための海外活動にも「自衛軍」が参加できるとしている。非軍事に限るとの制約もないため、武力行使も伴う海外活動への参加も違憲ではない。先のイラク戦争で言えば、自衛隊が現在行っている復興支援にとどまらず、治安維持に加わって、武装ゲリラと戦火を交えるかもしれない。
果たして新たな「自衛軍」は、どこまで活動を広げるのか。これら集団的自衛権の行使や海外活動のあり方などは、草案では「法律で定める」としているだけ。自民党は、これらを定める「国際協力基本法」や「安全保障基本法」も策定するとしているが、作業は遅れている。その法律を見ない限り、「自衛軍」を評価することは難しい。