どこが違う 自民党憲法草案「▼4 <権利・義務>人権前面忍ばす『らしさ』」(東京新聞)

「現行憲法では網羅できない新しい権利を意欲的に取り入れた」
自民党憲法起草委員会「国民の権利・義務小委員会」の船田元・委員長は、こう胸を張る。
憲法草案には、新しい人権に関する項目として(1)個人情報の保護(2)国民の知る権利(3)環境権(4)犯罪被害者の権利(5)知的財産権−の五つが盛り込まれ、現行憲法が制定した約六十年前には予想されなかった問題にも対応できる内容となった。
一方、「義務」については、国防や家庭保護を「国民の責務」とすることや、有害図書の出版禁止などを想定した「表現の自由」の制限なども見送られた。
権利は拡大したが、義務などの負担が重くなるのは抑えた格好だ。
現行憲法の権利・義務規定をめぐって、党内には「権利ばかりが書かれていて義務が少ない」との不満が渦巻いていた。
ただ、前文や九条とともに民主、公明両党との合意を重視しようとする勢力もあり、権利・義務小委は、こうした「協調派」と自民党らしさにこだわる「独自派」との主戦場となった。
各小委が四月にまとめた草案要綱では、新しい人権と、新しい「責務」がそれぞれ六項目ずつ列挙された。「責務」は、裁判で具体的に強制可能な「義務」ではなく、抽象的な訓示規定として持ち出された。「義務」よりは「責務」の方が国民の理解を得やすいとの判断からだ。しかし、国民に新たな負担を強いることには変わりはない。この時点では、「独自派」の年来の主張が前面に打ち出されていた。
それを押し返したのは、「協調派」の代表格で、起草委の事務総長を務める与謝野馨政調会長らだった。
与謝野氏は「衆院選で大勝した自民党が、新たな負担を国民に強いる印象を与えては、おごりと受け取られる」と主張し、新しい人権だけを盛り込む方針を打ち出した。党内では、厚労族が「社会保障の費用を負担する責務」の盛り込みにもこだわったが、与謝野氏らは受け入れなかった。
とはいえ、新憲法草案には、抑制的な書きぶりながら、今後の他党との調整で議論になりそうな自民党「らしさ」も滑り込ませている。
「公共の福祉」は「公益及び公の秩序」に言い換えられ、社会秩序の重要性を強調する形になった。「国民の責務」についても、具体的な条文化は見送ったものの、一二条で包括的に「自由及び権利には責任及び義務が伴うこと」の自覚を国民に求めた。この点について、船田氏らは「権利と義務のアンバランスな状況を一部解消できる」と自賛する。
厳格な政教分離を規定した現行の二〇条を一部改正し、社会的儀礼や習俗的行事の範囲内であれば、国や自治体の行う宗教的活動を許容した点も、民主党などとは「すぐには折り合えない部分」(起草委幹部)だ。
地鎮祭への関与や公金による玉ぐし料支出に道を開くのが狙いだが、首相による公的な靖国神社参拝の是認につながるとして、世論の批判を浴びる可能性が強い。