どこが違う 自民党憲法草案「▼6 <改正>『過半数』で発議は少数派」(東京新聞)

「改正」「最高法規」の項目で最も注目すべき条文は、現憲法九六条の「衆参総議員の三分の二以上の賛成で発議し、国民投票過半数の賛成を必要」とする憲法改正の議決要件を、自民党憲法草案では「過半数」へ大幅に緩和したことだ。
自主憲法制定を党是とする自民党。一般の法律の議決要件より厳しい「三分の二」の高いハードルに対し、「憲法改正を妨げる一因」と、常にやり玉に挙げてきた。
この五十年間、自民党が単独で「三分の二」を取ったことは一度もない。歴史的な大勝利となった九月の衆院選を経ても、自民党議席は四百八十議席中二百九十六議席で、約六割。公明党の三十一議席を加えて、ようやく「三分の二」に届く。参院では自民党過半数割れしており、与党だけで両院の「三分の二」は、まだまだ遠い。
ならば、手っ取り早く議決要件を緩めて、改憲しやすくしようというのが今回の草案。ハードルを一気に「過半数」に下げた。議決要件としては、一般の法律と同じになる。
国立国会図書館の世界主要各国の憲法調査などによると、過半数の賛成で成立する一般の法律より、憲法改正の議決要件を厳しくしている国は七十一カ国中、六十一カ国に上る。日本よりやや緩い「五分の三」とするブラジルなどの国から、より厳しい「四分の三」を必要とするフィリピンなどの国までと、厳格な議決要件も幅が広い。「過半数」が憲法改正の議決要件という国は、ニュージーランドイスラエルなど、世界的には少数派だ。
過半数」になれば、国際基準と比較しても、かなり「改正しやすい」憲法になる。
過半数」への緩和に対しては、現憲法を高く評価している公明党や、与党だけで憲法改正が可能になることを嫌う民主党の反対論が強い。そのため、「過半数」へ引き下げる憲法改正に必要な「三分の二」の賛成が得られるような政治状況にはなっていない。
自民党内の論議では、「三分の二」は変えずに国民投票を省く意見も出たが、国民軽視と受け止められるのが確実なため、大勢にはならなかった。
九九条の憲法尊重擁護義務の条文は、結果として仮名遣いを直した以外は現行憲法通りとなった。しかし、この条文についても激論があった。
今の憲法は、順守義務を天皇、国会議員らに課しているが、一般国民には課していない。憲法は、国家権力の暴走から国民を守るものだという立憲主義の考え方によるものだが、党内には「自ら制定した憲法を自ら守るのは当たり前だ」と、「国民」を入れるべきだという意見があった。
結果として、国民に安易に義務を課す改正は批判を招く恐れがあるという意見が多数を占めたため、条文書き換えは見送られた。だが、今後の国会での改正論議で、再び浮上する可能性のある論点だ。