「論理より情緒、英語より国語、民主主義よりも武士道精神」

知事コラム「情緒と形」上田清司埼玉県知事(埼玉県/彩の国だより 平成18年12月号)

大ベストセラーになった「国家の品格」の著者である藤原正彦先生の講演を聴く機会を得ました。
その内容は、「日本は世界で唯一の『情緒と形』の文明である」「『論理』と『合理性』のみの改革では社会の荒廃を食い止められない」「今、日本に必要なのは、論理より情緒、英語より国語、民主主義よりも武士道精神であり、国家の品格を取り戻すことである」といったところに要約できるでしょうか。講演の中で印象的だったのが、武士道精神を世界に広めた新渡戸稲造(にとべいなぞう)も内村鑑三キリスト教の洗礼を受けていたということです。確かにキリスト教の「愛」は武士道の「慈愛」や「惻隠(そくいん)」と通じます。当時世界をリードしていたキリスト教の世界を熟知していた新渡戸や内村は、「日本」をよく知っていたからこそ武士道とキリスト教の比較ができ、日本を評価できたのです。
さて、団塊の世代が来年から退職を迎えます。この世代の人口は前後の世代より5割増しです。私もそうですが、この世代はかろうじて、少年少女の時、大量生産、大量消費以前の生活を知っています。
確かに鉄道はあった、水道も電気もあった。しかし、テレビ、冷蔵庫、電気釜はありませんでした。生活様式はまさに明治・大正・昭和と続いていたものでした。そこに家族があり、地域もありました。今、それが弱くなり、多くの困難な問題が起こっています。
団塊の世代の多くは企業戦士として日本経済成長のけん引力となりました。今度は、残すべき或いは復活すべき「情緒と形」を教える使命があるのではないでしょうか。人間としての品格とは何か。それを探すのは、時間と体力がある私たち団塊の世代の役割ではありませんか。