北海道「君が代妨害」処分問題のその後

君が代妨害:処分取り消しの道人事委に再審請求 道教委(MSN-Mainichi INTERACTIVE 2006年12月27日(木))

北海道倶知安町の町立倶知安中学校の卒業式で男性教諭が君が代斉唱を妨害したとして、道教委が戒告処分をしたの対し、道人事委員会が10月、処分を取り消す裁決をした問題で、道教委は26日、「判断に遺漏がある」として、道人事委に再審を請求した。
道教委によると、道人事委の判断は、卒業式で君が代斉唱を指導するよう定めた学習指導要領は大綱的な基準ではないとし、法的拘束力があるとする最高裁判例などに反する▽卒業式の式典中に君が代斉唱を妨害した重大性を正確に把握していない−−などの点で、裁決に遺漏があったとしている。
同中で01年3月に行われた卒業式で、教諭が君が代の録音されたCDをプレーヤーから抜き取って妨害したとして、道教委は同7月、戒告処分とした。これに対し、教諭は処分を違法として、同9月、道人事委に取り消しを申し立てた。【千々部一好】



道教委、再審を請求/「君が代」巡る処分(asahi.com 2006年12月27日(木))

■取り消し裁決
後志支庁倶知安町の中学校の卒業式で、「君が代」の演奏を止めた男性教諭の戒告処分を取り消す裁決を道人事委員会が出したことに対し、道教委は26日「裁決にかかわる判断に遺漏がある」として、道人事委に再審を請求した。
再審請求の理由について道教委は、「学習指導要領の法的拘束力に関する裁決の判断は、学習指導要領が法規としての性格を持つとの最高裁判例などに反する」などの4点をあげている。
男性教諭は01年3月の卒業式で、校長がカセットデッキ君が代のテープをかけたところ、デッキを持ち去って演奏を止めた。道教委は同年7月、君が代の斉唱を明記した学習指導要領に従わなかったとして同教諭を戒告処分にしたが、教諭は道人事委に取り消しを申し立てた。
道人事委は今年10月、学習指導要領には「法的拘束力はない」などとして、「処分は懲戒権の乱用にあたる」と処分を取り消す裁決をしている。
道人事委事務局は「再審を行うかどうか、慎重に判断したい」としている。



道教委、国歌演奏妨害教諭の処分取り消しで再審請求(北海道)(YOMIURI ON-LINE 2006年12月27日(木))

後志・倶知安町の中学校で行われた卒業式の最中、国歌演奏を実力で阻止した男性教諭への戒告処分を取り消した道人事委員会裁決に対して、道教委は26日、再審請求を行った。なぜ懲戒処分は覆されたのか。裁決には、不透明な「ヤミ協定」が影を落としていた。
◆卒業式
裁決によると、問題の卒業式は2001年3月15日午前10時、教頭が進行係を務めて始まった。来賓席前に国旗が掲揚されたことに反発した北海道教職員組合(北教組)員の教員らが協力を拒否したからだ。教頭は全員の起立を求め、国歌を唱和できる者は唱和するよう告げて、カセットデッキの再生ボタンを押した。
男性教諭は、演奏開始後まもなく職員席後列から校長席の前に歩み寄り、机の上のデッキに手をかけた。
「先生」。驚いた校長はデッキに手をかけ制止しようとした。教諭は校長の手を振り切ってデッキを持ち去り、体育館出入口に向かった。その際、テープ演奏を停止しようとして、操作を誤り「ザー」という雑音が一瞬、館内に流れた。
◆伏線
式に先立ち、校長は01年2月、職員会議で卒業式の国旗・国歌実施を提案したが、組合員らは反発。式当日の朝まで複数回話し合いが持たれた。組合員らは式進行への非協力や、国歌斉唱の際には歌わないなどの方針を表明。校長は、組合員も積極的な妨害行為にまでは及ばないと判断。国旗・国歌実施を決断した。
組合員らが頑強に反対し続けた背景には、道教委の出先機関・後志教育局と北教組小樽、後志両支部が取り交わしてきた「労使確認」があった。国歌斉唱などは教職員の共通理解を得て実施するとの内容だった。
裁決は、校長の“抜き打ち的な”対応に重大な瑕疵があったと指摘。ヤミ協定に過ぎない労使確認の法的拘束力は否定したが、男性教諭が労使確認に基づいて卒業式が運営されることに強い期待を持つのは「無理からぬこと」で、長年容認してきた道教委側にも責任があるとして、処分取り消しの結論を導いた。
裁決はさらに、「類似のケースより、処分が重すぎる」との理由を挙げた。
◆勝者なき裁決
面目をつぶされた道教委教職員課は「生徒の目前で、式典を妨害したケースはこの1件のみ」と、男性教諭の突出ぶりを強調する。01年3月の卒業式では道内で計16人が訓告処分となったが、いずれも式典前などに、国旗を撤去するなどした行為で、式の最中に妨害行為をした例はなかった。
北教組側ももろ手を挙げて裁決を歓迎しているわけではない。「日の丸、君が代の歴史的な問題に踏み込んでいないのは許し難い。校長の瑕疵を認めたが、逆に言えば、手続きさえ踏めば強制が認められる」と小関顕太郎書記長は語る。
裁決は明確に教諭の行為を「公務員の信用失墜行為」と認定した。裁決は国旗・国歌法で日の丸・君が代論争は決着済みとの立場で、「国旗・国歌の強制」に反対する組合側の主張は根本を否定された。
道教委側は01年3月末、「法令上不適切」として、労使確認の無効を両支部に通知。以後、国旗・国歌実施率はほぼ100%だ。今春も全道で小中学校、高校での実施率は100%となっている。02年度以降、道内の国旗・国歌関連での教職員処分は0件だった。
解説 「自分の主義に合わない」からと言って、進行中の児童生徒の式典を大人が妨害する行為が、許されるだろうか。
人事委も裁決で懲戒相当と明示している。それなのに処分が取り消されたのは、道教委が長年不適切なヤミ協定を放置してきたことを重視したからだ。裁決は、過去の道教委の無責任さを指弾したものと言える。
その道教委がこの時期に再審請求を起こした背景には、来春の卒業式、入学式を前に、毅然とした姿勢を示さなければならない事情があった。裁決には、学習指導要領の法的拘束力を否定するなど、最高裁判例と食い違う不可解な部分もある。異議は異議として唱えておくべきだろう。
幸い、昨今の式典は平穏だ。教師には「処分による強制は許さない」などと主張する以前に、引き続き自身の職責と大人の良識を踏まえた行動を期待したい。