暴力を容認する国へ?

自衛隊PKO、武器の先制使用を検討…対象は非正規軍(YOMIURI ON-LINE 2007年1月14日(日))

政府は13日、国連平和維持活動(PKO)協力法に基づき海外で活動する自衛隊員らの武器使用について、従来の憲法解釈を変更し、自らの身に危険がない場合でも、任務遂行への妨害を排除する場合は使用を容認する方向で検討に入った。
自衛隊が停戦監視などの国連平和維持隊(PKF)本体業務に参加するのに必要と判断した。ただ、武器使用の対象は、犯罪集団など国の正規軍でないことが明確なケースに限定。国連施設を守ったり、逮捕者の逃亡を防いだりする時、相手から撃たれなくても先に武器を使うことを可能とする。政府は年内に解釈変更を表明し、PKO協力法など関連法の改正作業に入りたい考えだ。
現在の政府の憲法解釈では、「(自分の身を守るための)自然権的権利を超える武器使用は、憲法9条が禁ずる武力の行使に該当するおそれがある」としている。このため、PKO協力法が定める武器使用は、自衛隊員らが不測の攻撃にさらされた場合、自分や共に現場にいる人の命や身を守る時以外、できないことになっている。
PKOには、道路整備、輸送などの一般的な業務と、停戦監視などのPKF本体業務がある。2001年の法改正で、自衛隊はPKFにも参加できることになった。
しかし、武装解除の監視、緩衝地帯での巡回、武器の保管・処分などの任務を行う場合、自分が直接襲われてはいないが、不審者追跡など任務を遂行するために武器を使用するケースが生じる可能性が高い。政府・与党内では、武器使用基準を緩和しないと対応できないとの意見が多かった。
内閣法制局憲法が禁止する「武力行使」を「国際的な武力紛争の一環としての戦闘行為である」と定義している。その上で、武器使用の対象が「国や国に準ずる組織」でないことが明らかな場合、自分の身を守るため以外の武器使用も憲法上容認できるとする解釈を検討している。具体的には強盗団などを想定し、テロ・ゲリラ集団などの扱いも詰める方針だ。
安倍首相は就任後、内閣法制局など事務当局に対し、集団的自衛権や武器使用などの解釈見直しの検討を指示した。政府は今夏の参院選以降、検討結果をまとめ、武器使用の基準緩和を認める可能性が高い。その後、PKO協力法改正など具体的な法整備に乗り出す見通しだ。



仏大統領「日本のいない安保理はばかげている」(Sankei Web 2006年1月13日(土))

【パリ=佐々木類】欧州歴訪中の安倍晋三首相は12日夜(日本時間13日未明)、パリ市内の大統領府でシラク大統領と会談した。
安倍首相は国連安全保障理事会の改革について「主要国の考えを聞きなが柔軟に具体案を検討したい」と表明し、日本の安保理常任理事国入りに支持を求めた。シラク大統領は「日本のいない安保理はばかげている。日本の安保理入りを強く支持する」と述べた。
また、両首脳は自由や民主主義、法の支配といった基本的価値観を共有した両国が、戦略的パートナーとして国際社会の諸課題に協力して取り組むことで一致した。
安倍首相は北朝鮮の核・ミサイル開発、拉致問題について「断じて容認できない。国際社会が一致して圧力をかける必要がある」と強調。シラク大統領は「日本の立場を完全に支持する。拉致問題については日本の思いと怒りを(フランスも)共有する。全面的に協力していく」と応じた。
しかし、欧州連合(EU)内で中国に対する武器禁輸の解除が検討されていることに関連し、安倍首相は解除に反対する日本の立場に理解を求めたが、解除に前向きとされるシラク大統領は回答を避けた。
両首脳は日本と北大西洋条約機構NATO)の関係強化の動きに関連し、日仏両国や日EUの対話を緊密に行っていくことを確認した。



存在感強める防衛省 海外活動増へ布石(asahi.com 2007年01月10日(水))

戦後レジームから脱却する大きな第一歩――。防衛省が発足した9日、安倍首相はお気に入りのフレーズで省昇格の意義を強調した。防衛庁が発足した54年に生まれた首相として教育基本法改正に続く政権の「実績」に高揚感も漂う。集団的自衛権行使の研究や憲法改正を唱える首相にとって、自衛隊の海外活動が本来任務になることは何を意味するのか。省昇格は戦後日本の安全保障政策の分岐点になる可能性もはらむ。


●日米「軍事一体化」に拍車
防衛省法の成立は、わが国の民主主義国家としての成熟、シビリアンコントロール文民統制)に対する自信を内外に示すことになった」
安倍首相は9日午前、防衛省昇格の記念式典で胸を張った。久間・初代防衛相も続いた。「防衛政策の基本は省移行後も変えてはならない」
専守防衛非核三原則など、戦後日本の安全保障政策の大きな変更につながるのではないか――。省発足のこの日、首相や防衛相は、そうした懸念の払拭(ふっしょく)に意を用いた発言を繰り返した。
ただ、防衛省発足で従来は付随的任務だった海外での自衛隊の活動が、本来任務に格上げされた。それに伴う省改革や自衛隊の再編も矢継ぎ早に進む気配だ。
久間氏は防衛参事官制度の見直しに言及。防衛省は今年度末には陸上自衛隊に中央即応集団を新設し、約700人の中央即応連隊を海外活動をする際の先遣隊として派遣できる体制を整える。
さらに、この9月には省内に日米防衛協力課を新設し、日米安保体制強化に向け、在日米軍再編やミサイル防衛(MD)も加速される見通しだ。
折しも、防衛省正門でセレモニーが行われていたこの日朝、米原子力潜水艦と日本船の接触事故があり、省内は緊迫する場面もあった。海上幕僚監部は午前7時すぎ、在日米海軍から一報を受け、インド洋へ派遣している海上自衛隊の補給艦部隊に速報したという。
ミリタリー同士の情報交換が威力を発揮する。そんな場面は自衛隊の海外派遣が多くなればなるほど日常的になり、日米間の軍事一体化に拍車がかかることになる。しかも省昇格で対米交渉の窓口を担った外務省との関係が変わるのは間違いない。
これまで主導権を握ってきた外務省は警戒感を強めるが、防衛省幹部は「外務省とは別ルートで独自の政策調整を行う時代になる」との見方だ。
この日の会見で久間氏もこう語った。「防衛省が表に出て提案するケースも出てくる。非常に危険を伴う場合は、外務省よりも防衛省国防総省と話をすることが増えてくるのではないか」


陸自に「現地情報隊」新設
イラクで安全確保に最も重要なのは『情報』だった」。現地を知る複数の隊員は言う。
本来任務に格上げされた海外活動では、治安・警備機関や住民からの情報収集が不可欠だ。陸自は今春、派遣先での「協力者確保や情報収集」を任務とする約50人の「現地情報隊」を新設する。
宗派などの地元事情がいかに大切か。陸自幹部は思い知らされた。
05年12月、イラク南部サマワ郊外で、陸自の車列がデモ隊に囲まれて投石を受けた。車両の一部を止めていた場所が、対米強硬派サドル師派の事務所に極めて近かったため、支持者らを刺激してしまったのだ。この幹部は「情報収集が足りず肝を冷やした」と話す。現地雇用したイラク人を通じて様々な情報を入手したが、他国の部隊に依存する部分が大きかった。
ただ、人的な情報収集活動には危険が伴う。協力者の身分がばれれば命にもかかわる。だが、陸自は「自衛隊が派遣される場所は『非戦闘地域』。情報隊が危険にさらされる状況はないと考えている」との認識だ。
「国際協力の裏では国益むき出しの駆け引きがある」。PKOである国連カンボジア暫定行政機構(UNTAC)の停戦監視員リーダーを務めた福井祐輔さん(59)は、2等陸佐だった92年から現地で活動した。自衛隊の初の海外派遣だった。
要員配置が発表され、福井さんは副司令官のもとでトラブル処理に当たる戦略情報チームの指揮官に決まった。PKOの要職である監視員の中でも特に重要なポストだ。だが翌日、急な変更で福井さんは地域担当となり、情報チームは他国の将校に。裏で何が動いたかは分からないが、ポストをめぐる各国の駆け引きがあったとみられる。
カンボジアの後のPKO派遣では、自衛隊から停戦監視員は出ていない。監視員が武器を携行しないことへの抵抗感が一部にある、という防衛省関係者もいる。
PKOにも様々な形態があり、さらにイラクやインド洋への派遣は意味合いが大きく異なる。福井さんは「どういう形であれ、国益に合うような内容の派遣を考えていくべきだ」と語る。