自民惨敗に関する社説

社説:自民惨敗 民意は「安倍政治」を否定した 衆院の早期解散で信を問え(MSN-Mainichi INTERACTIVE 2007年7月30日(月))

参院選自民党が歴史的敗北を喫した。与党は過半数を大幅に下回り民主党参院で第1党となった。
安倍晋三首相にとっては、全国の有権者に審判を仰ぐ初の国政選挙だった。私たちは今回の参院選を「安倍政治」を問う選挙であるとともに、自民、民主両党による2大政党化の進展を占う選挙と位置付けてきた。
選挙結果について安倍首相は29日夜、「国民の声を厳粛に受け止めなければならない」としながらも、自らの進退については「改革続行、新しい国造りを約束してきた。この約束を果たしていくことが私に課せられた使命だと決意している」と続投する意向を明らかにした。
与党内には「参院選政権選択選挙ではなく首相の進退は問われない」という声もある。
しかし98年の44議席を下回り、40議席を切る大敗北である。今回の結果は国民による「安倍政治」への不信任と受け止めるべきだろう。首相の政治責任はあまりにも明らかであり、続投が民意に沿った判断とは思えない。
6年任期の参院では3年ごとに議員の半数が改選される。
このため今後少なくとも3年間は法案成否の主導権は野党に握られる。衆院で再議決する道はあるが混乱は必至だ。
今後の政策遂行上、まず課題となるのは11月1日で期限切れとなるテロ対策特別措置法の延長問題である。さらに来年度予算編成との関連で本格的な消費税論議も始めなくてはならない。北朝鮮の核問題に関する6カ国協議への対応など外交上の難問も山積している。
首相は参院選敗北にもかかわらず続投を決意したからには、早期に衆院を解散し、改めて信を問うべきである。


◇身内の論理に不信増す
自民党大敗の大きな理由は、国民が「安倍政治」は自分たちの方を向いていないと受け止めたからだろう。
5000万件に及ぶ年金記録漏れに対して当初、政府・与党の反応は鈍かった。首相は追及する民主党議員に対して、年金制度に対して不安をあおると切り返した。
対策に本腰を入れ出したのは5月下旬に毎日新聞などの世論調査で支持率が急落してからだ。
年金記録の持ち主を捜すための名寄せ作業を急いだ。保険料支払いを証明できない人に対する給付策も打ち出した。
しかし国民は参院選対策用のパフォーマンスという疑念を消せなかった。本社世論調査では現行対策について8割が解決策にはならないと回答した。
「政治とカネ」の問題も首相は甘く見た。佐田玄一郎前行革担当相、松岡利勝前農相、赤城徳彦農相らの事務所経費問題が続いた。
首相は要領を得ない説明を繰り返す閣僚をかばうばかりで、政府与党全体が不信の目で見られるようになった。
自民、公明両党の賛成で改正政治資金規正法が成立した。これは資金管理団体だけに限定し、5万円以上の経常経費支出に領収書添付を義務付ける内容だ。
これも赤城氏の後援会のような団体は規制外で、さっそくザル法の正体を露呈してしまった。
本来、内閣の重しになるべきベテラン閣僚からは、柳沢伯夫厚生労働相の「産む機械」発言や久間章生前防衛相の「(原爆投下は)しょうがない」発言が飛び出した。それは内閣の緊張感の欠如とともに首相の指導力不足をあらわにする結果となった。
事務所経費問題に加え、総裁選で支援を受けた仲間で作った「お友だち内閣」の大きなツケが回ったものだろう。このように首相は国民の視点に立つことなく、身内の論理に終始した。それが国民からの不信を決定的なものにした。
「官から民へ」をキャッチフレーズにした「小泉改革」を継承するのかどうかも不明確だ。
郵政造反組を復党させたが、これは05年の郵政解散大義を無視したものだ。首相は親しい議員の復党にこだわったが、小泉純一郎前首相の構造改革路線への抵抗ともみられた。6月の「骨太の方針」も族議員や官僚に配慮し総花的になってしまった。
一方で参院選の日程をずらしてまで会期を延長して、公務員制度改革関連法などを成立させた。前首相のような政治主導をアピールしたかったのだろう。
しかし採決の強行を繰り返すドタバタぶりで、かえって国民の信用を失った。


◇重い責任を負った民主党
首相は「戦後レジームからの脱却」を前面に掲げてきた。実際に改正教育基本法防衛省昇格、国民投票法なども成立させた。集団的自衛権憲法解釈の見直しについても進めている。
国民は暮らしの実感から離れた理念先行型の安倍路線に対して明らかに「ノー」と言ったと言える。
参院で第1党に躍り出た民主党の責任は重い。
民主党小沢一郎代表は憲法や安全保障政策などはあえて選挙戦では触れずに、年金や格差是正など生活に焦点を当てた。
消費税率は据え置き方針をとり、農家に所得補償する「戸別所得補償制度」も打ち出した。
1人区で自民党を圧倒したのは中央・都市との格差に矛盾を抱く地方の支持を得たためだろう。「市場主義」は、強い者だけが生き残るという不満も吸収した。
政権政党を目指すならば、まず財源問題をはじめとする具体的な政策を提示し実現への努力が求められる。
安保政策でも米国との摩擦を覚悟でインド洋やイラクから自衛隊を撤退させることができるか。党内の意見を集約し統一した方向性を打ち出せるか、政権担当能力が問われよう。



社説:参院選・自民惨敗―安倍政治への不信任だ(asahi.com 2007年7月30日(月))

衝撃的な選挙結果である。
安倍首相は昨秋の就任以来、この参院選での勝利に狙いを定めて、さまざまな手立てを講じてきた。有権者はその実績に対して、はっきりと「不合格」の審判を下した。
しかし、首相は結果を厳粛に受け止めるとしながらも「私の国づくりはスタートしたばかり。これからも首相として責任を果たしたい」と述べ、政権にとどまる意向を表明した。まったく理解に苦しむ判断だ。


●民意に背く続投表明
さすがに自民党内にも首相の責任を問う声が出ている。すんなりと続投が受け入れられるとは思えない。首相はもっと真剣に今回の結果を受け止め、潔く首相の座を退くべきである。
それにしても、すさまじい惨敗ぶりだ。自民党は30議席台へ激減し、ライバル民主党に大きく水をあけられた。非改選議席を加えても、民主党に第1党を奪われた。1955年の自民党結党以来、第1党の座を滑り落ちたのは初めてだ。「政権を選ぶ衆院選とは違う」というには、あまりに度を超えた敗北だ。
公明党も後退し、与党全体で過半数を大きく割り込んだ。与党は衆院で7割の議席を押さえているものの、参院での与野党逆転はこれまでの国会の進め方を根本的に変えることになるだろう。
全国で、安倍自民党に対する「ノー」の声が渦巻いた。
「自民王国」のはずだった地方の1人区でばたばたと議席を失い、参院自民党の実力者、片山虎之助幹事長まで落選した。2年前の郵政総選挙で小泉自民党が席巻した大都市部でも、東京、神奈川、千葉、埼玉、愛知で民主党が次々に2人当選を果たした。
2年前、自民党を大勝させた無党派層が、今度は一気に民主党に動いたのだ。自民支持層のかなりの部分が野党に流れたのは、政権批判の強さを物語る。
衝撃は自民党内に広がっている。中川秀直幹事長や青木幹雄参院議員会長は辞任する。それでも首相が続投するとなれば、世論の厳しい反応が予想される。
まして、与野党が逆転した参院を抱え、これからの政局運営や国会審議は格段に難しくなるはずだ。参院で安倍首相らへの問責決議案が出されれば通るのは確実な勢力図だし、混乱と停滞は避けられないのではないか。


●1人区の怒り、深刻
敗北の直接の引き金になったのは、年金記録のずさんな管理に対する国民の怒りだった。さらに、自殺した松岡前農水相や後任の赤城農水相らの「政治とカネ」の問題、久間前防衛相らの暴言、失言の連発が追い打ちをかけた。
首相にとっては、不運の積み重なりだったと言うこともできる。だが、ひとつひとつの問題の処理を誤り、傷口を広げたのはまさに首相自身だった。
年金では「浮いたり、消えたり」した支払い記録の不備が次々と明らかになり、後手後手の対応に追われた。政治資金の問題も、松岡氏をかばい続けて自殺という結果を招き、後任に起用した赤城氏にも同じような疑惑が発覚。総裁選での論功や自分の仲間を重視する人事の甘さが次々に浮かび上がってしまった。
その一方で、国会では数を頼みに採決強行の連続。うんざりだ、いい加減にしろ……。広がったのは安倍氏への同情や共感より、安倍政治への基本的な不信ではなかったか。
選挙結果で注目すべきは、とくに1人区で自民党が不振を極めたことだ。地方の経済が疲弊する一方で、高齢者ばかりの町や村が増える。人々の不安と不満が膨らんでいるのに、自公政権は本気で取り組んでくれない。そうした思いが底流にあると見るべきだ。
都市で集めた税金を、公共事業などを通じて地方に再配分する。良くも悪くも自民党政治を支えてきたメカニズムだ。それが終わりを告げたのに、代わりの方策が見つからないのだ。


●優先課題を見誤った
地方の疲弊に象徴される格差への国民の不満、将来への不安は、都市住民や若い世代にも共通するものだ。とりわけ弱者の暮らしや安心をどう支えるのか。これこそが、小泉改革を引き継いだ首相が第一に取り組むべき課題だった。
ところが、首相が持ち出したのは「美しい国」であり、「戦後レジームからの脱却」だった。憲法改正のための国民投票法をつくり、教育基本法を改正し、防衛庁を省に昇格させた。こうした実績を見てほしい、と胸を張ってみせた。
有権者にはそれぞれ賛否のある課題だろう。だが、それらはいまの政治が取り組むべき最優先課題なのか。そんな違和感が積もり積もっていたことは、世論調査などにも表れていた。
自民党は成長重視の政策などを打ち出し、実際、景気は拡大基調にある。なのになぜ負けたのか、真剣に分析すべきなのに、首相が「基本路線には(国民の)ご理解をいただいている」と政策継続の構えを見せているのは解せない。
政治はこれから激動の時代に入る。与野党に求められるのは、衆参で多数派がねじれるという状況の中で、対立だけでなく、お互いの合意をどうつくり、政治を前に進めていくかの努力だ。
自民党は、これまでのような強引な国会運営はやりたくてもできない。だが、民主党もいたずらに与党の足を引っ張るだけなら、次は国民の失望が自分たちに向かうことを知るべきだ。
そんな新しい緊張感にあふれる国会を実現するためにも、首相は一日も早く自らの進退にけじめをつける必要がある。



参院与野党逆転 国政の混迷は許されない(YOMIURI ON-LINE 2007年7月30日(月))

「歴史的」な参院選の結果である。1955年の保守合同後、参院で初めて野党が第1党となった。
続投を表明した安倍首相の政権運営や国会のあり方などに大きな影響を及ぼすのは必至だ。日本の政治構造の変動につながる可能性もある。
自民党が惨敗し、公明党も不振だった結果、与党は過半数を割った。民主党は大躍進し、第1党に躍り出た。
民主党には、年金記録漏れや不明朗な事務所費処理、閣僚の軽率な問題発言など、政府・与党の“失策”に対する有権者の批判が追い風となった。


民主党の責任は重い◆
景気拡大の実感がないとする地方や労働者などに根強い「格差」への不満も、安倍政権や与党への批判につながったようだ。建設業、農業、郵便局など、自民党の伝統的な組織基盤が揺らぐ1人区に焦点を当てた小沢代表の選挙戦術も奏功したのだろう。
衆院で与党、参院で野党がそれぞれ過半数を占めるという衆参“ねじれ”現象にあって、参院第1党として、参院運営の主導権を握ることになる民主党の責任は、極めて重い。
小沢代表はかねて、参院での与党過半数割れの実現を通じて政権交代を目指す、と主張している。政界再編も視野に入れて、政府・与党を衆院解散に追い込む狙いだろう。
衆院で可決された政府・与党の法案が送付されても、参院で否決や修正が出来る。野党が参院に法案を提出、可決して衆院に送付し、政府・与党を揺さぶることも可能になる。首相や閣僚の問責決議案を可決することも難しいことではあるまい。
こうしたことが常態化すれば、国政の混迷は避けられない。


◆政策の遂行が重要だ◆
衆院で3分の2を超える勢力を確保する与党は、参院で否決された法案を再可決し、成立させることが出来るが、現実には容易なことではない。
懸念されるのは、内外の重要政策推進への影響である。
例えば、年金・医療・介護など社会保障制度を安定させるための財源としての消費税率引き上げを含めた税財政改革である。
野党はいずれも消費税率引き上げに反対だが、いたずらに対立するだけでは、安定した社会保障制度構築の展望を早期に開くことが困難になる。
米軍再編問題も、野党は、沖縄県の米海兵隊普天間飛行場の移設に、どう取り組むのか。米軍再編推進特措法に反対した民主党の対応によっては、北朝鮮の核の深刻な脅威の下にある日本の平和と安全にとって死活的に重要な日米同盟の信頼を損ないかねない。
テロ対策特措法の延長問題も、民主党が反対して延長出来ないとなれば、日本は国際平和活動に消極的な国と見なされ、国際社会での発言権の低下を招く恐れがある。
そうした事態が現実になれば、二院制のあり方や参院の存在意義にも、大きな疑問符を付けられるだろう。
日本が直面する内外の重要課題を考えれば、民主党は、政略のみに走るのではなく、責任政党としての姿勢をしっかり保つことが重要である。
自民党の惨敗は、多様な要因が複合した逆風の結果だろう。
年金記録漏れ問題は、年金行政への不信を生んだ。
辞任した佐田玄一郎行政改革相や、自殺した松岡利勝農相と後任の赤城農相らの不明朗な事務所費の処理は、「政治とカネ」への疑念を招いた。
久間章生防衛相が辞任に追い込まれた原爆投下に関する「しょうがない」発言への批判も痛手となった。
総裁選での論功行賞人事が、こうした問題閣僚の起用につながったとして、安倍首相の任命責任を厳しく問う声もあった。だが、歴代、論功行賞人事のなかった政権はない。


◆政権を立て直せるか◆
最大の争点となった年金や格差の問題は、いずれも過去の政権の“負の遺産”と言うべきものだ。必ずしも、政権発足後10か月の安倍首相に全責任を負わせることは出来まい。
年金記録漏れは、長年の社会保険庁のずさんな実務処理によって生じた。適切な対応を怠ってきた歴代の内閣の責任が大きい。
格差の拡大は、「失われた10年」の間、経済再建に有効な手を打てなかったことや、小泉前政権で、竹中平蔵・経済財政相が主導した極端な市場原理主義にも原因がある。
安倍首相が、小泉政治の行き過ぎた面と一線を画していれば、小泉政治のマイナス面と同罪と見られることはなかっただろう。
厳しい選挙結果にもかかわらず、安倍首相は、「新しい国づくりに責任を果たす」と繰り返し強調した。引き続き「戦後レジームからの脱却」を掲げ、憲法改正教育再生に取り組む決意の表明である。
それには、選挙の審判を重く受け止め、民主党との協調も模索しつつ、態勢の立て直しを図らねばならない。



社説:【主張】自民大敗 民主党の責任は大きい(Sankei Web 2007年7月30日(月))

自民、公明の与党が参院過半数を大きく割り込む大敗を喫した一方で、安倍晋三首相は続投を表明した。


首相は反省し態勢強化図れ
日本が取り組むべき内政・外交の課題山積を踏まえ、懸案の解決に不退転の決意を示したのであろう。
だが、首相はこの敗北をまず真摯(しんし)に反省しなければならない。教訓をいかにくみ取り、安倍政権の態勢をどう立て直すか。内閣改造などを通じて首相の指導力が厳しく問われる。
他方、民主党は勝利し、参院第一党に躍進した。それだけに民主党は国政上、より大きな責任を負ったことを自覚しなければなるまい。政権を担う責任政党に脱皮することなく、これまでのような対決路線を踏襲していては、いずれ国民から手痛いしっぺ返しを受けることになろう。
与野党が対立する法案は、衆院を通っても参院で否決される公算が大きいが、国益に資する法案は党派を超えた協力こそが必要なのである。
与党への逆風は幾つか挙げられる。やはり最後まで吹き続けた逆風は、年金記録の紛失問題だった。政府・与党は受給者らの不安を解消しようと、早急に対応策をまとめて実施したが、不信感を払拭(ふっしょく)することには至らなかった。


≪不信感払拭できず≫
同じく選挙直前に表面化した赤城徳彦農水相の事務所経費問題が、「政治とカネ」をめぐる有権者の政治不信に拍車をかけた。
さらに敗北の大きな要因は魅力ある候補者を擁立できなかったことにもある。青木幹雄参院議員会長や片山虎之助参院幹事長ら、参院側責任者の選考判断が、時代に合っていないことの表れといえる。
首相が取り組むべきは、改革路線の担い手にふさわしい清新な候補者の擁立だ。新たな参院執行部人事により、変革を行う好機が現出したのではなかろうか。
一方、民主党年金記録紛失問題を追い風に、国民生活重視の立場を打ち出した。憲法、教育を通じた国の再生に力を入れる首相の姿勢から、負担増にあえぐ国民や地方格差などへの配慮が不足していると判断し、自民党との差別化を図った結果、政権への批判票の受け皿を作ることに成功したといえよう。首相は地方でこうした不満が高まっていることを直視し、有効な対策を実施しなければならない。
戦後レジーム(体制)」からの脱却を掲げ、憲法改正を政治日程に乗せ、教育再生の具体化を図るなど、新しい国づくりに向かおうとした安倍首相の政治路線の方向は評価できるが、それを実現させる態勢があまりに不備であったことは否定できない。
相次ぐ閣僚の辞任などを招いたのも、首相の指導力不足に原因があるといえよう。党役員人事や内閣改造により、突破力や発信力のある人材の登用が不可欠である。


≪「対決」では混迷へ≫
問題は、選挙によって生じた衆参のねじれ現象という新たな政治構造の中で、どのように改革を円滑に実現していくか。与党との対決姿勢を強めてきた民主党が、責任政党にふさわしい立ち居振る舞いをできるかどうかに、大きくかかっている。
さっそく、秋の臨時国会では海上自衛隊がインド洋で補給活動などを行うためのテロ対策特別措置法の延長措置をとる必要がある。
民主党は選挙公約で、イラクに派遣されている自衛隊の撤退を掲げたが、日米同盟や国際貢献に不可欠なテーマについて、現実的な対応をとれるかどうかは、テロ特措法への対応が試金石になるだろう。
憲法改正の核心となる9条や集団的自衛権の行使容認の問題についても、民主党は明確な見解を示すべきだ。
参院議長ポストの獲得にあたり、民主党は共産、社民両党とも共闘することになるだろう。しかし、野党連合では現実的な外交・安保政策をとることはできまい。
小沢一郎民主党代表が提唱する政権交代可能な二大政党はよしとするが、衆院解散に追い込むため、これまでのような政局本位で対決路線を続けるのかどうか。民主党は、真に政権を担える勢力たりうるかどうかを証明することが求められている。



【社説】安倍自民が惨敗 『私の内閣』存立難しく(東京新聞 2007年7月30日(月))

安倍政治にノーの判定が下された。どんな主張も政策も国民の信頼を失っては実を結べない。参院選の突風はそう教えている。首相の「私の内閣」は存立可能か。
「小泉・郵政総選挙」から二年足らず。小泉後の安倍晋三政権が信を問うた参院選はまるでオセロゲームのように「黒白」が反転した。
議席を争う二十九選挙区で小沢一郎氏の民主など野党が安倍自民党を圧倒した。改選数三や五の大都市圏も自民と公明の候補は押しまくられた。東京、埼玉、神奈川などで民主に、どちらかがはじき出された。
比例代表では自民得票率が前回参院選をさらに割り込んだ。凋落(ちょうらく)ぶりは目を覆うばかりである。


「敗因は安倍さん」の声
選挙の最終盤に自民比例候補の陣営で聞いた悲鳴と落胆が耳に残る。「なんで安倍さん、こんなに人気ないの?」「九年前の橋本政権の参院選最終盤と空気が同じ。負ける」
橋本政権は必ずしも不人気だったわけでない。が、長い不況に手をこまぬく与党の失政批判に加え、財政政策の首相のブレ発言がたたって自民は大敗。四十四議席だった。
安倍氏は首相就任十カ月の信任を求めた。教育基本法を変えた、改憲国民投票法をつくった、想定外だった年金の記録不備問題も手を打っている、と。
遊説先では、公務員制度の改革や地域の再生、攻めの農政も掲げて「改革か逆行か」と訴えた。
戦後生まれ初の日本国首相は戦後体制脱却を唱える。しかし気負いは空転した。語る言葉が目次の域を出ず、戦後の何が悪く、だからどうする、を語れなければ、国民がついていくはずはない。
首相は気づいていなかったのだろうか。先の国会の強引な運営は支持離れに拍車をかけた。「空気が読めない」−こんな批判が与党にくすぶる中での、橋本政権時の獲得議席も下回る惨敗に、与党からも「敗因は安倍さん」の陰口が聞こえる。


進行していた基盤の劣化
野党は国民の年金不安への政府対応、そして閣僚らの失言や不透明なカネの説明不足をめぐっても、後手を繰り返す首相の甘さを突いた。
政権リーダーの「資質」が焦点になれば反政権側に追い風が吹く。30%前後に下落した内閣支持率は選挙前から与党の劣勢を物語っていた。だが、これほどの逆風の厳しさは、それだけでは説明し切れない。
自民の支持基盤の甚だしい劣化である。前兆はかねてあった。突然変異のように人気を集めた小泉長期政権で忘れられていた深刻さが、今春の統一地方選で実感されていた。
四十四道府県議選と主要都市の市議選結果が参院選の自民敗北をかなりの確率で予言している。都市で民主は議席を大幅に伸ばし、自民の金城湯池の農村部でも躍進した。
今回参院選の一人区でいえば、県議大幅減の岡山や滋賀、九州でも自民の幹部やベテランが敗れた。東北の一人区、四国は全滅。石川、富山ですら自民は苦杯をなめた。
かろうじて当選できた人も、農家の所得補償などを掲げる小沢民主に守勢に立たされた。縮むパイを蜜月のはずの自民と公明が奪い合う。そんな事態が各地で展開された。
自公で二議席死守を目指す大都市の選挙区で、公明から自民へパンフ配布の要求があった。実際に配ったかどうか“監視”つきで。終盤には自民の県議一人につき五百票分を融通するよう公明が求めた。
「こっちだって当落の瀬戸際」と自民陣営。母屋を乗っ取られる、堅い宗教団体票を当てにした連立を続けていれば、支持基盤が弱るのは当たり前だよねぇ、といった自民陣営の運動員の嘆きを聞いた。
猛烈な逆風は連立与党間にも冷気を吹かせた。そもそも右傾斜の目立つ安倍自民と公明の相互にある違和感は、自公の参院半数割れで増幅されておかしくない。
忘れるわけにいかないのは、主要な争点が小泉・安倍政権通算六年半の決算でもあったことである。地方・弱者切り捨て政治だ、と格差拡大を攻める野党に、与党の反論は迫力を欠いた。地方の荒廃が進み、都市住民にも不公平感が募る中での「政権審判」選挙だったのだ。
歴史的といっていい惨敗だが首相は続投するという。自公両党の執行部も退陣はあえて求めていない。ただ求心力の減衰は避けられまい。
内閣改造で急場をしのぐにも人事は就任来の首相の“鬼門”である。国会はじめ政権の運営は困難を強いられよう。よほどの覚悟が要る。
 速やかな総選挙が常道だ
勝った民主にはもちろん第一党の重い責任がのしかかる。衆院は与党圧倒多数のままだ。参院の多数野党が政治をかき乱すと映れば、世直しを期待した有権者は裏切られたと思うだろう。悲願の政権も遠のく。
とはいえ政権との安易な妥協は困る。多少の混乱なら談合よりましである。衆院の与党の暴走を抑え、参院で再考を促せるなら、二院制本来の機能発揮が期待できるからだ。
首相にも要望する。あなたはいまだ総選挙の洗礼を受けていない。ぜひ、速やかな政権選択選挙を、と。



社説:安倍首相はこの審判を厳粛に受け止めよ(日経ネット 2007年7月30日(月))

第21回参院通常選挙は29日投開票され、自民党が大敗を喫して与党が過半数を大きく割り込む結果となった。自民党の獲得議席は40に届かず、民主党が目標の55議席を大きく上回って参院の第1党に躍り出た。年金の記録漏れ問題や閣僚の相次ぐ失態などで有権者の政府不信の声が一気に噴き出した結果と言えよう。安倍晋三首相は引き続き政権を維持する意向を表明したが、有権者の厳しい審判を厳粛に受け止め、謙虚な政権運営を心がける必要がある。


噴き出した政府不信
与党である自民、公明両党は衆院で3分の2以上の絶対多数を維持しているが、参院過半数を大きく割り込んだため、政局の動揺は避けられそうにない。政局不安によって改革が停滞したり、経済に悪影響が出たりするようなことがあってはならない。この際、与野党の責任ある行動を改めて強く求めたい。
参院選での与党の敗因ははっきりしている。年金の記録漏れ問題で有権者は政府に裏切られたような感情を抱き、政府不信の声が渦巻いた。この問題が国会で表面化した際の柳沢伯夫厚労相の対応も迅速・的確だったとは言い難い。内閣支持率の急落に驚いた安倍首相が急きょ、陣頭指揮で網羅的な対策をとりまとめたが、有権者の怒り・不信を鎮めることはできなかった。
有権者の政府不信に拍車を掛けたのが閣僚の相次ぐ失態である。「政治とカネ」をめぐる松岡利勝前農相の自殺は衝撃的であり、久間章生前防衛相の原爆発言は大きな反発を招いた。その後も赤城徳彦農相の事務所費問題や麻生太郎外相の不適切発言などが続き、安倍内閣の支持率は30%前後に低迷した。安倍首相の任命責任に厳しい目が向けられたのは当然である。
参院選のカギを握るとみられた29の1人区で民主党自民党を圧倒した。これら1人区では地域経済の不振や過疎化に苦しむところが少なくない。農家に対する戸別所得補償制度や月額2万6000円の子ども手当などの民主党の公約は多分にばらまき的で財源の裏付けも明確ではないが、こうした政策が政府不信の高まりと相まって、有権者の一定の支持を集めたことは否定できない。
その点で小沢一郎民主党代表の地方重視の選挙戦術は極めて巧妙だった。従来、民主党は中国、四国、九州地方では劣勢だったが、今回の参院選ではこれらの地方でも自民党と互角以上の戦いを展開しており、2大政党化の流れは一段と定着してきたといえよう。
参院選有権者は安倍首相に厳しい審判を突きつけた。しかし、参院選で負けたからといって首相が辞めなければならないわけではない。参院選は政権選択の選挙ではない。安倍首相が辞めても次の首相は自民党内のたらい回しで選ばれるから基本的に何も変わらない。参院選の結果で首相が頻繁に変わることは本来、好ましいことではない。
そうは言っても、惨敗した安倍首相の求心力低下は避けられず、続投しても政権運営はかなり苦しくなるのは間違いない。参院では野党が反対する法案は通らなくなる。野党の主張を丸のみするか、衆院の3分の2の多数で再議決するかの二者択一になるが、再議決を何度も繰り返すことは容易でない。政局は当面、衆院の多数派と参院の多数派が異なる「ねじれ」によって不安定になることは避けられそうにない。


政局不安で停滞招くな
政局の動揺を収束させるためには早期に衆院を解散して民意を問い直すことが基本的に望ましい。そこで民主党が第1党多数派になれば政権交代となり、自民党が第1党になれば民主党との大連立か、政界再編によって新たな多数派形成をめざすことになるだろう。
議院内閣制は衆院の多数派が内閣を組織し、議会の信任を得て安定した政治運営を行う仕組みである。日本のように解散のない参院衆院とほぼ同じ権能を持っていると、衆院参院の多数派が異なる場合にたちまち政権運営は行き詰まる。これは日本の政治の構造上の欠陥・矛盾である。この機会に参院のあり方を根本的に見直す議論を高めたい。
政局不安によって改革の動きを停滞させてはならない。日本経済は回復基調にあるが、国際競争の中で安定成長を続けるには不断の構造改革が不可欠である。財政改革や行政改革の手を緩める暇はない。参院選で示された民意を踏まえて年金制度の信頼性確保も待ったなしである。
参院で第1党に躍り出た民主党の責任は重大である。民主党は早期の衆院解散を求めてさらに攻勢を強める構えだが、国会で何でも反対の方針をとったり、いたずらに政局を混乱させるような行動はとるべきでない。そのような無責任な態度は有権者の失望を招くだけである。



社説:07参院選 「良識の府」を取り戻せ(琉球新報 2007年7月30日(月))

年金問題を最大の争点とした第21回参院選は、29日投開票が行われ、年金問題を追い風にした民主党が躍進し議席を大きく伸ばしたのに対し、自民党は改選議席を大幅に減らし惨敗した。
与野党が一騎打ちの激しい戦いを繰り広げた沖縄選挙区は、無所属で野党各党から推薦を受けた元職の糸数慶子氏が、自民公認で公明推薦の前職・西銘順志郎氏を破り当選した。
与党は自民、公明両党の非改選議席を合わせて過半数を割り込んだ。安倍晋三首相は、昨年9月の就任以来、初めて臨んだ全国規模の国政選挙で国民から極めて厳しい審判を下された。
一方、民主党参院の第一党に躍り出た。小沢一郎代表が描く次期衆院選での政権交代の道筋が現実味を帯びてきたと言えよう。


自ら招いた逆風
参院選の結果は、衆院選とは違い、政権選択に直接結び付くものではない。とはいうものの、安倍政権にとっては、今回の選挙結果は不信任を突き付けられたも同然である。
各種世論調査で与党の劣勢が伝えられた以後、自民党執行部は首相の責任問題の火消しに躍起になってきた。首相自身、続投を表明している。だが今後、進退問題に発展する可能性も否定できない。
有権者はなぜ民主党に多くの議席を与えたのか。
重要法案を強調する割には、与党の国民への説明は不十分で、国会では与野党論議が深まらないまま、対立法案を強引に採決にかける姿勢が目立った。先の通常国会の会期末で乱発した強行採決が好例である。
衆院議席の3分の2を占める巨大与党を背景に「数の論理」で押し切る政治手法を推し進め、与野党の合意が軽視される。こうした「安倍政治」への異議申し立てでもある。猛省を促していると受け止めるべきだ。
国民は、首相が掲げる「戦後レジーム(体制)からの脱却」に対しても、もっと丁寧な説明を求めているのではないか。国の行方や国民の暮らしを左右する重要法案に対して、慎重に論議を尽くすことを政治に強く期待しているはずだ。首相をはじめ、政府与党は国民の期待や願いには耳を傾け、常に謙虚であるべきだ。今後の国のかじ取りに生かす必要がある。
与党を惨敗に追い込んだのは言うまでもなく、年金問題を中心に吹き荒れた「逆風」にある。しかし逆風は、決して自然発生的に起きたのではない。その源は、政府与党に発しているのだ。自らまいた種である。


示せるか存在意義
年金問題だけではない。原爆投下について「しょうがない」と公示直前に発言し辞任した久間章生前防衛相の失言もしかり、説明責任を果たさない赤城徳彦農相の事務所費問題もしかりである。
首相はこれらの問題に指導力を発揮できなかったばかりか、逆にかばい続けた。国民の怒りを買い、不信が広がり、不安をもたらしたのは当然だ。
発足から10カ月。この間の「安倍政治」は、沖縄選挙区の行方にも影を落とした。
米軍普天間飛行場の移設問題では、十分な説明もなく、名護市辺野古海域の環境現況調査(事前調査)で海上自衛隊が投入された。
文部科学省の歴史教科書の検定では、沖縄戦の「集団自決」をめぐる軍の関与に関する記述が削除・修正された。県民の総意である検定の撤回と記述の復活要求は一顧だにされない。
いずれも県民にとってはゆるがせにできない重大な事柄だ。新たな基地を造らせないことなどを軸に「平和の1議席」を訴え、平和な暮らしをアピールした糸数氏の勝因にもつながっている。
自民党の記録的ともいえる大敗で選挙は幕を閉じた。だが年金制度の抜本的な制度の設計、政治とカネの問題など選挙戦で争点になったさまざな問題は片付いていない。国民の立場に立った制度の在り方をめぐる議論などは、むしろこれからだ。3年後には与党による憲法改正の発議も予想される。
今の参院は、「良識の府」と呼ぶには懸け離れすぎている。党利党略が優先され、衆院の議決をなぞって追認するだけでは参院の機能は果たせない。今回の結果で参院での論議に緊張が戻ってくることを期待したい。参院の存在意義を示してほしい。



社説:参院選で自民惨敗 首相は責任どう取るか(中国新聞 2007年7月30日(月))

安倍晋三首相の「負けるわけにはいかないんです」という訴えは、有権者に届かなかった。きのう投票が行われた参院選で、自民党総裁としての責任論に絡む勝敗ラインを自身がどう設定していたのか、最後まで明らかにしなかったが、過半数割れどころか、三十議席台と惨敗した。
安倍首相が昨秋、党内の圧倒的な支持を得て政権を掌握したのは、北朝鮮による拉致問題での強い姿勢が国民の支持を受け「選挙の顔」として期待されたからだろう。あれから十カ月、初の本格的な国政選挙で、有権者から「不信任」を突きつけられたのである。政治の世界の「怖さ」をまざまざと見せつけている。


年金問題逆風に
選挙中に劣勢を伝えられながら、政府与党幹部らは衆院の絶対多数を背景に「首相は結果いかんにかかわらず続投すべきだ」と予防線を張ってきた。このシナリオ通りに、選挙後も首相は続投の意向を示している。中川秀直幹事長が引責の形で辞表を提出。青木幹雄参院議員会長も辞意を表明したが、それだけで今後の政局を乗り切れるのか。
自民惨敗の主因はやはり、国民の不信を買った年金記録の不備問題だろう。ただ、社会保険庁のこれまでのずさんな体質に対する批判がそのまま自民党に向かったとは断定できまい。年金問題をめぐっては、選挙戦を通じて次第に論点が整理され、記録処理などの実務改善と将来の制度設計を分ける冷静な論議になり、前者については与野党の一致点も広がっていた。むしろ、現行制度の継続を柱とする与党案では有権者が安心できなかったのではないか。
二〇〇五年衆院選での自民圧勝に対し、今度の惨敗は有権者のバランス感覚がもたらしたとみることができるかもしれない。あの衆院選投票率が前回を大幅に上回り、現行制度で過去最高を記録するほど大量の「浮動票」が自民に流れた。今回の参院選は選挙区の最終投票率が前回を2・07ポイント上回る58・64%となった。期日前投票も一千万人を超えている。その多くが自民への批判に向けられたといえそうだ。
「自民王国」だった中国地方の選挙区は全国の縮図にも見える。改選前、欠員一を含む六議席を独占していたのに、青木会長の地元、島根県で前職が国民新党新人に苦杯をなめ、岡山県では参院幹事長が民主新人に敗北。鳥取県でも前職が議席を失った。広島県で前職が民主新人と議席を分け合い、安倍首相の地元、山口県で前職が勝利したものの、閣僚のたび重なる問題発言、あまりにお粗末な事務所費の計上などを含め、安倍政権への評価が全体としてマイナスだったといわざるを得ない。安倍首相は小泉純一郎前首相の改革路線続行を唱えていたが、郵政造反組をいち早く復党させるなど、国民の多くには「逆行」と映ったのではないかとみられる。


民主 農村で支持
自民を抜いて参院第一党になった民主は「風頼みの都市型政党」から一皮むけたようだ。年金問題を地道に追及してきた議会活動が評価されたのが大きい。加えて、小沢一郎代表が過疎地もきめ細かく回り、農家への「戸別所得補償制度」導入などと相まって農村部でも支持を一気に拡大した。政権交代への地歩を固めたいところだろう。
自民への逆風は、これまでの選挙で連戦連勝を誇っていた連立与党、公明党にも及んだ。原爆投下を「しょうがない」と発言した久間章生前防衛相を辞任に追い込むなど存在感を発揮したものの、十分浸透しなかった。
与野党逆転参院が今後、民主党主導でどう運営されるか。先の国会では法案採決に際し、与党の強引さが目立った。今回の結果は国民が反省を促したともいえる。両院の力関係が異なるため、政治の不安定を懸念する声が出ている。しかし、民意を損なわず、丁寧に議論を尽くすことが新しい参院の使命でもある。



社説:参院選 自民惨敗 安倍政権への不信任だ(秋田魁新報 2007年7月30日(月))

「天下分け目の決戦」と評された第21回参院選に、国民の審判が下った。開票作業は夜を徹して行われたが、予想通り民主党が大きく躍進して「参院第一党」となり、自民党には厳しい結果となった。
自民の獲得議席は、公明党と合わせた与党の過半数割れどころか、橋本龍太郎首相(当時)が退陣した平成10年の44議席を下回る30議席台となった。歴史的大敗である。
これは何を意味するのか。昨年9月の就任以来、安倍晋三首相が進めてきた政治に、国民が「ノー」を突きつけたとみるべきだろう。つまり、安倍首相が唱える「戦後レジーム(体制)からの脱却」や「美しい国」路線を国民は支持しなかった、ということだ。
選挙戦の中盤以降、自民党幹部は「政権選択選挙ではない」と盛んに予防線を張った。しかし安倍首相にとって初の大型国政選挙であることを考えれば、「安倍政治」を信任するか否かの選挙だったことは動かしようがない。
安倍首相は大勢判明後、続投の意向を表明した。しかし選挙結果は予想以上に厳しく、自らの進退に関して厳しい判断を迫られよう。一方の民主は「敵失」に乗じた感があり、真価が問われるのはこれからであることを十分に認識すべきである。
民主に追い風、自民には逆風となった選挙の風向きは、最後まで変わることはなかった。
その最大の要因は年金記録不備問題にあるのは間違いない。安倍政権は矢継ぎ早に対策を打ち出したものの、当初、問題を軽視したツケが国民の不信感となって表れ、ついに一掃できなかった。これが大きい。
無論、自民惨敗の原因は年金問題だけではない。農相の自殺、その後任農相の事務所費問題、さらには公示直前に防衛相辞任を招いた「(原爆投下は)しょうがない」発言もある。
「政治とカネ」問題への対応を含め、要するに政権の足元を国民に見透かされた。政権への信頼感を築けなかったことは致命的ですらある。
ただし、これは表層的な一面にすぎない。結局は、「安倍政治」の内実を国民が鋭く感じ取ったのではないか。
その一つは、安倍政治と生活実感との乖離(かいり)である。安倍首相がいくら成長路線を強調しても、国民の多くは格差問題で呻吟(しんぎん)している。従って成長路線のまま突き進んでも、潤うのは一部の人たちにすぎないとの疑念を抱かざるを得ないのだ。
もう一つは、強引な政治手法である。憲法改正に向け、国民投票法を国会で強行してまで成立させたのが象徴的だ。こうした数にモノを言わせてまい進する政治に、一種の危うさをかぎ取ったとも分析できる。
3候補が争った本県選挙区は、無所属新人で民主、社民推薦の松浦大悟氏が、3選を目指した自民公認の金田勝年氏を破って当選した。3年前の参院選の再現となり、本県政界に与える影響は計り知れない。
票差は前回の約4万5000票に匹敵する約4万3000票に達した。「追い風」に加え、現状打破に向けた期待感が民意となって表れたということではないか。



自民惨敗(神奈川新聞 2007年7月30日(月))

政権「不信任」を直視せよ
結果は「不信任」だった。安倍晋三政権にとって初めての全国規模の審判である。直視すべきである。惨敗の責任は明らかだ。
何が政権の失望を招いたのだろう。選挙公示後にも嫌なシーンがあった。赤城徳彦農相の「顔面ガーゼ」問題。現職大臣の異変と映ったものを当初「何でもない」とかたくなに説明を拒んだ。この程度のものですらはっきりした物言いをしない。それで済むと考えていたところが象徴的である。
赤城農相は松岡利勝前農相を継いで同じような事務所費問題を起こしている。首相がかばい続けた前農相は自殺し、「原爆しょうがない」発言の久間章生前防衛相は自ら辞した。選挙戦に入ってからも麻生太郎外相の失言が追い打ちをかけた。自民党の反転攻勢のきっかけを摘むような疑惑や失態がなぜこうも相次いだのか。
安倍首相は当初から靖国問題で「参拝したとも、しなかったとも言わない」とするあいまいな態度をとった。最近も「できることしか言わない」と有言実行を強調したが、言葉尻をとらえられたくない用心があっただろう。消費税問題でも発言はぶれ、方針を明確にしない。あいまいを貫くのは「戦術」かもしれないが、そうした責任や覚悟をはっきり表さない姿勢が閣僚にも伝染し、自己規律が緩んでしまったのではないか。
この戦術は参院選でも発揮された。首相は改選議席の勝敗ラインの設定に触れず、責任論を回避。不利が明らかになって、呼応するかのように「首相退陣不要」の予防線が自民党内で張られた。
思えば、通常国会の会期を延長したのは安倍首相自身であった。そこには「重要法案」を仕上げて「実績」をつくり、さらに選挙日程をずらすことで年金不備問題の沈静化を図る狙いがあったろう。あいまい戦術の陰で、政治手法は強引だ。異論を抑え込んで事を進めながら、結果責任もあいまいにする、では済まされまい。
年金問題の逆風が強かった。だが、国民の「安倍離れ」は以前から出ていたのではないか。安倍政権には小泉改革路線を引き継ぎながら、格差などマイナス面を改めていく期待があったはずだ。
なのにそうしたリーダーシップが示されず、「美しい国」づくりといった、それこそあいまいな物言いに自ら埋もれて、傷口ばかりあらわになっていった。そこに失望が広がったのだろう。自民党が第一に自民支持層を固め切れなかった点にそれが表れている。
このうえ首相のポストにしがみついても政権維持のシナリオは険しい。国会運営の停滞や混乱も避けられない。衆院解散のみならず政界再編も現実味を増す。安倍首相はなお「国民との約束を果たしたい」と続投のつもりだが、求心力を失った「死に体」政権を国民が欲していないことは確かだ。



社説:参院選*自民党惨敗*民意は安倍政治を拒んだ(北海道新聞 2007年7月30日(月))

安倍晋三政権を信任せず−首相が初めて臨んだ全国規模の国政選挙で示された民意は明白だ。
自民党は三十議席台の歴史的大敗を喫し、一けたに後退した公明党と合わせても過半数を大きく下回った。第一党に躍り出た民主党を軸に野党勢力参院の主導権を奪うこととなった。
投票率は過去二回をしのいだ。うねりのような民意の表出は政権与党への単なる「懲らしめ」ではない。
にもかかわらず、首相は引き続き政権を担う意向を明らかにした。
首相は選挙戦で、自分と民主党小沢一郎代表と「どちらが首相にふさわしいか国民に聞く」と述べていた。
今回の選挙結果を謙虚に受け止めれば、続投に理はあるだろうか。


*解散・総選挙こそが筋だ
年金記録に関する社会保険庁のずさんな事務処理が国民の怒りを買った。それが安倍首相の政権運営に対する不信に結びついたのが、自民惨敗の一番の要因だろう。
首相の当初の対応は拙劣すぎた。野党の追及に対して「国民の不安をあおる」と及び腰だったのに、世論が沸騰するとあわてて関連法案を強行採決する。逃げの姿勢と付け焼き刃的な手法が政権の信頼性を揺るがした。
自殺した松岡利勝農水相や後任の赤城徳彦農水相の事務所費問題が次々と表面化し、久間章生前防衛相、麻生太郎外相と主要閣僚の失言も続いた。
緊張感を欠いた内閣と首相の指導力不足有権者は愛想を尽かし、失望したのではないか。首相が打ち出した年金記録漏れ対策を国民が評価しなかったのもこのためだろう。
半面、先の国会で強行採決を連発した強引さは際立つ。タカ派的な国家観や歴史認識に基づく「戦後体制からの脱却」に向け、九条改憲などに突き進む危うさを感じ取り、ブレーキをかけようと考えた人も少なくなかった。
もう一つの大きな敗因は小泉改革のひずみだ。公共事業を減らし、地方自治体への交付税補助金を削る政策は地方に大きな痛みをもたらした。
金城湯池である九州や四国の一人区で軒並み敗れ去ったことは、首相が引き継いだ改革路線の見直しを求める声がいかに大きいかを示す。
自民党と八年間連立を組んできた公明党も苦杯をなめた。支持団体の平和志向と安倍政治との間に距離があったことも背景にあるだろう。
参院選衆院選と違い、首相を選ぶ政権選択選挙ではない。ただ首相も自民党も今回は党首力の競い合いだと位置付け、安倍か小沢か、自民党民主党かと有権者に選択を迫ってきた。
二大政党化の流れの中で、それが参院選に政権選択的な意味合いを帯びさせたことは否定できない。
首相は昨夜、選挙の敗北について「責任は私にある」と認めた。ところが、「改革を続行していくことが私の使命だ」と述べ、辞任は否定した。
これでは安倍政治を拒否した民意をないがしろにすることになる。
政権をかけて戦うのはあくまで衆院選だと言うのなら、国民は総選挙を求めるしかない。首相は早期に衆院を解散し、国民の信を問うのが筋だ。


*重み増した民主党の責任
民主党は結党以来の大勝利だ。
小沢代表は一人区が勝負のかぎを握ると見て地方行脚を続け、大胆な農業政策を打ち出して票固めに専念した。負ければ政界を引退すると退路を断った。この選挙戦術が功を奏した。
政権交代の最後のチャンス」と訴えた小沢代表は絶好の足場を得た。
参院での法案審議を通じて、与党を早期の解散・総選挙に追い込むことに全力を傾注することになろう。
民主党が政権批判票をほぼ独占したのは、有権者政権交代の受け皿と期待したためだろう。それだけに責任は一段と重くなる。
今回のマニフェストでは、体系的で総合的な政策を提示したとは言えない。財源にあいまいさが残るし、党内で意見が分かれる憲法や安全保障政策ははっきりと書かれていない。
安倍政権の「美しい国」と違う、どんな国づくりを目指すのか。対抗軸を明確に語らねばならない。
共産党社民党国民新党新党日本の野党各党は伸び悩んだ。だが野党が多数を占める参院で果たすべき役割は大きい。その中でいかに独自性を発揮していくかが課題になるだろう。


*道民は「格差」を批判した
道選挙区は、民主党現職の小川勝也氏に次いで、自民党現職の伊達忠一氏が当選し、民主、新党大地など推薦の新人多原香里氏は及ばなかった。
一九九八年以来、三回続いていた、自民、民主で一議席ずつ「指定席」を分け合う図式が今回も繰り返された。
しかし、伊達氏は二議席独占を狙う民主党の戦略に、最後まで苦しんだ。北海道新聞出口調査では、自民党支持層も固め切れていなかった。
年金問題に加えて、格差問題が道内有権者の判断に影響した。
道内の賃金水準は全国を下回り、仕事も少なくて就業人口も急激に減っている。公共事業の減少を打開する展望が開けず、道民には疲弊感が募る。
構造改革で格差が広がったと指摘した民主党に勢いがあった。
地方切り捨てと厳しく問う道民の声を、与党は重く受け止めるべきだ。



社説:参院選で自民惨敗/戦後政治の潮目は変わるか(河北新報 2007年7月30日(月))

自民党の歴史的敗北である。
東北の8議席を見ても、自民が2議席に減らし、民主系が6議席を制した。全国的に自民から民主への議席移動は地滑り的だった。
民意は「安倍政治」を否定しただけではない。安倍政治の下地になっている伝統的な自民党政治そのものも否定したのではないか。
年金記録不備問題は、かつて自民党と旧社会党が微妙な政治バランスを保った「55年体制」の産物との見方をされた。「窓口端末機の連続操作は45分以内」などと社会保険庁労使が交わした確認事項を見ると否定もできない。
しかし、55年体制自民党が政治支配を貫くための巧妙な仕掛けだった。今回の選挙ではこの党のそうした古い体質も問われた。
「政治とカネ」の問題は、結党から52年の今でも、政治家としての行動倫理が自民党に根づいていないことを示した。「事務所費問題」から閣僚らの志の低さを感じ取った有権者も多いはずだ。
憲法改正自民党の歴代首相が積み残した宿題だが、自主憲法制定の党是が安倍政治のもとで息を吹き返した。世論は一般的な改憲手続きに柔軟だが、戦争放棄の九条改正には厳しい目を向ける。微妙な世論の賛否を束ねて改憲に持っていこうとする安倍政治のスタンスに危うさはなかったか。
自民党をぶっ壊す」と強弁した小泉前政権の登場は、硬直を続ける自民党政治を一時的に延命させる仕掛けだったかもしれない。
昨年9月に小泉政権からバトンを受け取ってスタートした安倍政権では、古い自民党を象徴する党内派閥が復権した。政権初の「骨太の方針07」の周辺には、省庁と癒着する族議員がうごめいた。
小泉政権時代に施された薄メッキがはがれ、本来の自民党政治の「地金」が浮き出てしまった。それが安倍政治の姿だと言える。
競争における勝者にばかり光を当てようとする「新自由主義」(市場原理主義)も、小泉構造改革をきっかけに顕著になった自民党の政策思想的な地金である。
構造改革路線の影である「格差」は小泉前政権の負の遺産として安倍政権に引き継がれた。しかし、安倍政治は効果的な格差是正策を打てないまま、国民生活には実感のない経済成長戦略に走る。
世論が違和感を抱くこうした政策的なスタンスは、年金や「政治とカネ」問題、国会で相次いだ法案の採決強行、閣僚の問題発言の連発などが重なることにより、マイナスの方向に加速度をつけて転がり落ちていったのではないか。
衆参両院を車の両輪に例えれば、自民・公明の与党議席が定数の3分の2を超える巨大な車輪(衆院)と油を差しても回りにくい小車輪(参院)で、車体を前に進めるのもままならなくなるだろう。
有権者は今回の選挙でこうした高い代償を払いながら、地金をむきだしにした安倍自民党に「ノー」を突き付け、少しでも現状を変革できるよう願ったのだろう。
安倍首相は続投を表明したが、自民党がなすべきことはまず、巨大与党の思い上がりを捨てることだ。参院選敗北のふちから謙虚さを拾い上げなければならない。
与野党対決の激化で国会運営の摩擦係数は一気に高まるが、政策的には思い切ってウイング(翼)を広げ、野党との協調ののりしろをできる限り多く取るべきだ。
そのためには、国民各階層の要求と共感をきめ細かく吸収できる党に再生しなければなるまい。
偏狭なナショナリズム的風潮に流されたり、派閥や官僚・族議員の言動に惑わされたりせず、リベラル勢力を含めた党内のさまざまな主張や思想を尊重できる多様性を持った党を目指すべきだ。
野党の柱となる民主党は大勝した。しかし、「この党に政権を任せる」という有権者の信頼感を獲得したかというと話は別である。
次の衆院選で与党を過半数割れに追い込めるだけの政権戦略と政策、それに現実味のある野党連携の舞台を準備しなければ、ポスト自民の資格は得られないだろう。



社説:参院選 自民党大敗 安倍政治が否定された(新潟日報 2007年7月30日(月))

安倍政治の十カ月に有権者は「ノー」を突き付けた。
自民党は改選議席六十四に遠く及ばず、連立を組む公明党と合わせても参院過半数に届かなかった。まさに歴史的な大敗である。
安倍晋三首相は選挙戦で、勝敗ラインについて言及することを避けた。有権者の審判は、勝ち負けを論ずる必要がないほど明確だった。
戦後レジーム(体制)からの脱却」を掲げ、国民投票法や改正教育基本法を成立させた安倍政権の「実績」は有権者に受け入れられなかった。安倍首相と与党は、この点を直視しなければならない。


◆独善的手法に嫌悪感
選挙戦で最大の争点となったのは年金問題だった。「消えたり、宙に浮いたり」した年金記録不備問題に有権者の怒りが集中した。
政府の緩慢な対応は不信と不安を増幅させた。年金を争点とした参院選自民党が敗北したのは、これが初めてではない。三年前の参院選でも、政治家の年金未払いが厳しく問われ、自民党は四十九議席にとどまった。
にもかかわらず、自民党は年金改革を怠ってきた。有権者のしっぺ返しを受けるのは当然だ。
しかし、自民党がここまで大敗した要因を「年金の逆風」だけに求めるのは早計である。むしろ、昨年九月の政権発足以来、「美しい国」というあいまいな理念に基づいて、復古主義的な政策を推し進めてきた安倍政治に有権者が嫌悪感を抱いたからではないか。
先の通常国会では重要法案で強行採決や単独採決を繰り返した。論議を深めるよりも初めから数の力に頼る姿勢は、民主主義の本義にもとる。
首相は続投の意向を表明している。体制選択の選挙と位置付けたのは、安倍首相自身ではなかったか。有権者の声を謙虚に聞くべきだ。


◆政治の衰弱は深刻だ
参院に大変動をもたらした選挙だが、内実は寂しい限りだ。年金記録の消失は政治のテーマというより、事務執行のずさんさが原因だ。どうすれば加入者を救済できるかについて与野党が協力して知恵を絞るべきであった。
相変わらず「風頼み」の選挙に終始したことは残念だ。政治家が語るべき言葉を失っている。事態は極めて深刻である。政治の衰弱ぶりは目に余る。
相次いだ閣僚の失言はその典型である。久間章生防衛相は「原爆投下はしょうがない」と語り、柳沢伯夫厚生労働相は女性を「子どもを産む機械」と表現した。これらの発言に対して、安倍首相の反応は極めて鈍かった。
柳沢厚労相は謝罪するにとどまり、久間防衛相の辞任には日数を要した。任命権者としての首相の判断力に多くの国民が疑問を感じたのは当然だ。
政治とカネの問題にも首相は指導力を発揮できなかった。「ナントカ還元水」の松岡利勝農相は、自殺でしか職を解かれなかった。後任の赤城徳彦農相は、不明朗な事務所費問題に加え、領収書の二重使用疑惑にまみれている。首相はこれにもおとがめなしだ。
改革を標榜(ひょうぼう)するなら、まず政治とカネの問題に手を着けることだ。中途半端な政治資金規正法の改正で逃げていてはならない。
安直な候補者選びにも苦言を呈したい。教育再生会議の室長や拉致担当内閣補佐官を立てた理由は何か。教育や拉致という国民的課題に党派性を持ち込むことはいかがなものか。
民主党にも話題性優先の候補者がいた。有権者に国会議員を身近に感じさせる側面はあるにせよ、政治の劣化を物語ることに変わりはない。


◆真価問われる民主党
小沢一郎代表が目標とした五十五議席を大きく上回った民主党は、次の衆院選での政権獲得に展望を開いた。主導権を握った参院で、政策提言能力を発揮できるかどうか。真価を問われるのはこれからだ。
参院選で、憲法や教育問題など骨太のテーマについて語ることを回避したのは疑問だ。今回の選挙は、民主党が勝ったのではなく自民党が負けたのだ。民主党の政策は有権者の胸に響いたのか。閣僚の失言がなくても勝てたのか。きちんと総括する必要がある。
民主の前職二人と自民の新人が大激戦を繰り広げた新潟選挙区は、自民の塚田一郎氏と民主の森裕子氏が議席を分け合った。
創価学会を基盤とする組織力を誇った公明党は苦戦した。憲法擁護を訴えた共産党社民党も低迷した。自民、民主の二大政党が争う構図に、割ってはいる力がなかったということだ。
衆院では与党が三分の二を占め、参院は野党が過半数を握ることになった。国会の運営方法も変わってくる。政治が不安定になると危惧(きぐ)するのではなく、論議を深める好機ととらえたい。
格差問題や少子高齢化問題、疲弊した地方をどう立て直すかなど政治課題は山積している。
空疎な言葉が踊る政治はこりごりだ。有権者が一票に託した思いを真摯(しんし)に受け止める政治の登場が待たれる。



社説:民意は安倍政権を見限った 参院選・自民党大敗(西日本新聞 2007年7月30日(月))

第21回参院選挙で、民主党が大きく躍進し、参院過半数を野党が制したのに対し、自民、公明の連立与党は合計でも40議席台にとどまり、改選議席の3分の1以上を失った。参院での主導権は完全に野党に移る。惨敗と言うしかない。
安倍晋三首相が率いる政権与党に、有権者が不信任を突きつけたとも言える。2005年総選挙で、同じ与党が大勝したことが信じられないような民意の劇的反転である。
安倍政権にとって初の本格的な国政選挙となった今回は、有権者に「安倍政治」の審判を仰ぐ機会でもあった。そこでの厳しい評価を、首相は重く受け止めねばならない。
安倍首相は「改革の責任を果たしていくことが課せられた使命だ」と続投の意向を表明した。しかし、その判断は正しいものだろうか。
衆院で与党が圧倒的多数を維持していても、参院での過半数割れは、政権運営を著しく難しくする。与野党対決法案はことごとく参院でストップし、予算関連法案の審議が止まると、予算執行も困難になる。
敗北の責任は、やはりトップが引き受けねばならない。それが筋である。安倍首相は地位に恋々とすることなく、自ら身を引くべきだろう。


敗因は「年金」だけでない
当初から、与党の苦戦は予想されていた。最大の争点であった年金問題での有権者の怒りが当然、投票行動に反映されるとみられていた。事前の世論調査では、政府の年金問題対応に60%の人が批判的だったのである。
「宙に浮いた」あるいは「消えた」年金記録の扱いについて、首相は「私の内閣ですべて解決する」と約束したが、それくらいで収まるような反発のレベルではなかったということだ。
首相は選挙中、社会保険庁を悪者にし、その「解体」で年金健全化を演出しようともした。だが、これは逆効果ではなかったか。不始末したこの手が悪いと自らの手をたたくようなものである。責任転嫁に聞こえた。
選挙結果を見る限り、年金不信は、前回総選挙で自民党に雪崩を打った主婦や若者を野党にくら替えさせたばかりか、自民党支持の多い年配層までそっぽを向かせたようだ。
加えて、閣僚の「政治とカネ」疑惑と相次ぐ失言も、モラルの緩みと自浄力不足という点で政権を痛撃したはずである。
複数閣僚の事務所経費にかかわる疑惑は、いずれも晴らされぬまま。言説の軽さへの反省も希薄だった。有権者をなめるなと言われても仕方ない政府与党の対応だった。
劣勢を首相は「実績」でカバーしようとした。教育基本法の改正、改憲の手続き法である国民投票法の成立、官僚の天下り規制などだ。それらは「戦後レジー厶(体制)からの脱却」という言葉でくくられた。
首相は「改革か逆行か」とも叫び、政権が取り組んでいる新経済成長戦略の果実としての景気回復や雇用増を、実績として強調した。
それらは本来、与野党の論戦の主要テーマになってよいものであるが、政策以前の政権への強烈な逆風の前では、まっとうな議論にならず、有権者の受け止めもどこかクールだった。
投票率は前回を上回る見通しだ。統一地方選と重なる年の参院選は選挙疲れから低投票率になるという「亥(い)年」のジンクスは覆された。政治を変えるという強い民意が投票率アップに結び付いたということだろう。


重くなる民主党の責任
参院第一党に躍進した民主党の責任が今後、格段に重くなることも指摘しておかねばならない。
民主党が思い違いしてならないのは、彼らの「実績」「マニフェスト」が必ずしも国民の強い支持を得たわけではないということである。
5月まで50%近くあった安倍内閣支持率の急落は、もっぱら政権の不手際に起因する。民主党の支持率アップはその受け皿になったというのが正確だろう。選挙結果も地力の勝利でなく、敵失と認識すべきだろう。
民主党マニフェストは、年金財源の不確かさが与党に衝(つ)かれ、経済政策の弱さが批判された。故なしとしない。参院第一党の立場に甘えることなく、責任政党として力量アップに努めねばならない。
与党は選挙敗北を受け、政権運営のため、直ちに参院での多数派工作に着手することになる。ただ、大敗した与党への参加は、民意に背くことに等しく、引き抜きは容易ではない。
政局は当然、波乱含みとなろう。国政の停滞が続くことは許されないが、早晩、政権選択を国民に問う衆院解散・総選挙は避けられないだろう。
自民党は1989年の参院選大敗の際、翌年の通常国会冒頭で衆院を解散し、過半数を制して政治の主導権を取り戻したことがある。野党に地力がないと、そんなこともある。
与党は、民意の離反を真摯(しんし)に受け止め、路線の修正を図る必要がある。野党は勝利におごることなく、支持を盤石にしなければならない。そうした与野党の努力の差が、次の総選挙での盛衰につながる。