桝添氏に対する違和感

社説:年金着服 告発せずは「公」の責任逃れだ(毎日新聞 2007年10月7日(日))

自治体職員による国民年金保険料の着服問題で、時効にかからない全国9市町のうち8市町が告発しないことを明らかにしている。
告発しない理由は、すでに社会的制裁を受けているからだという。この自治体の対応は承服しがたい。身内をかばう意図がみえみえだけでなく、公務員の義務にも反するのではないか。年金不信がますます増幅しかねない。
国民年金の保険料徴収は、02年3月まで市区町村が代行していた。社会保険庁は、業務上横領罪の公訴時効(7年)にかからない9市町の元職員について、刑事告発するよう促していた。
求めに応じて告発したのは東京都日野市だけだ。大阪府池田市宮城県大崎市三重県鳥羽市秋田県男鹿市愛媛県新居浜市、北海道様似町、福島県田村市群馬県大泉町の8市町は告発しない。
不正行為を働いた元職員は着服した金を全額弁済したうえ、懲戒免職となったケースがほとんどだという。「当時、社保庁から処分についての指示がなく、今になって急に方針が変わり困惑している」(池田市)、「元職員を懲戒免職し、当時の田尻町長や町職員も自ら処分した。処分の厳正さは揺るがない」(大崎市)などと反論している。
地方の「不服従」に対し、舛添要一厚生労働相は、自治体側が刑事告発しない場合には社保庁長官に告発させる考えを明らかにしている。やむをえない措置だ。公務員の犯罪行為は、行政の内部で処分して事足れりというものではないからだ。
不正がわかった時点で、首長は告発して捜査機関の判断を仰ぐのが筋だ。検察が、当人への社会的制裁やその後の更生などを総合的に判断して起訴するか否かを決めなければならない。公訴権のない自治体の長が司直の領域まで越権してはならない。
刑事訴訟法239条2項は「官吏又(また)は公吏は、その職務を行うことにより犯罪があると思料するときは、告発をしなければならない」と規定する。厳密に言えば、告発を見送る市町はこの義務に違反しているとみるのが通説だ。
今回のケースとは別に、公務員の退職後に在職中の不正行為がわかる場合も多い。取り逃げを防ぐため、今後、退職金を返納させる仕組みも必要になろう。
消えた年金記録」の原因の一つに、職員の保険料着服が指摘されている。公務員の不正行為にはだれからも後ろ指をさされないようなけじめが欠かせない。それがゆるむと、国民の「公」への信頼はつなぎとめられない。
ただ、この問題の取り扱いをめぐって舛添厚労相が「市町村窓口は信用できない」と述べたり、首長の反乱に遭うと「小人(しょうじん)の戯(ざ)れ言」とか「バカ市長」などと挑発的発言を繰り返すのは明らかに行き過ぎだ。いやしくも首長は住民の選挙で選ばれている。国民受けだけを狙ったような品のない発言は自治体職員の士気も損なう。反省してほしい。