イラク派遣に対する重い司法の意見

高裁による、画期的判断だ。すでに傍論との揶揄があるけれど、高裁の判決である。司法の重い意見を立法・行政が無視することは許されない。今まで数を頼みに論理構築もせず根拠も示さず国民にキチンとした説明もせずにゴリ押ししてきたが、そうはいかない。何かが必要だ、何かをしなければならないとなったら、理由を示し、説明を尽くすことこそが国会と政府の基本的な仕事だということを、もう一度噛みしめて反省してもらいたい。
国の主権者はあくまで国民である。国会でも政府でも、ましてや「与党」などという実体の知れないあやふやな郎党ではない。国民が納得のいく理由を説明せず、ただただ強行にモノゴトを進めていくならば、そのような輩たちには早々にお引き取りいただかねばならない。一刻も早く衆院を解散し、総選挙により民意を問うべきだ。


自衛隊イラク派遣:空自の多国籍軍輸送は違憲 「首都は戦闘地域」−−名古屋高裁判決毎日新聞 2008年4月18日(金))

(前略)
青山裁判長は判決で「イラクでは、多国籍軍と国内武装勢力の間で武力紛争が行われ、特に首都バグダッドは多数の犠牲者が出ている地域でイラク復興特別措置法でいう『戦闘地域』に該当する」と認定。多国籍軍の兵士をクウェートからバグダッドへ空輸する空自の活動について「戦闘行為に必要不可欠な後方支援を行っており、他国による武力行使と一体化した行動」と述べ、武力行使を禁止した憲法9条1項とイラク特措法2条2項、活動地域を非戦闘地域に限定した同条3項に違反すると判断した。
また原告は派遣により平和的生存権が侵害されると訴えていたが、判決は平和的生存権を「憲法上の法的な権利」と認定。「憲法9条に違反する国の行為により個人の生命が侵害されるような場合には、裁判所に違憲行為の差し止めを請求するなどの具体的権利性がある」と判断した。
(中略)
◇首相「傍論だ」
福田康夫首相は17日夜、名古屋高裁判決について「傍論だ。わきの論。判決は国が勝った」と述べた。今後の影響については「問題ない。特別どうこうすることはない」と語った。
(後略)



イラク空自違憲の判断 政府の理屈の矛盾突く(朝日新聞 2008年4月18日(金))

(前略)
「政府は総合的な判断の結果、バグダッド飛行場は非戦闘地域の要件を満たしていると判断している。高裁の判断は納得できない」。町村官房長官は17日の記者会見で、あからさまに不満を示した。
高裁判決は「バグダッドは、国際的な武力紛争の一環として行われる、人を殺傷し、物を破壊する行為が現に行われている。イラク特措法にいう『戦闘地域』に該当する」と指摘。空自の活動はイラク復興支援特措法にも憲法9条にも違反するとした。
政府はバグダッド全体が戦闘地域か非戦闘地域かの判断はしていないが、少なくとも「バグダッド空港と輸送機が飛ぶ経路は非戦闘地域」(防衛省幹部)と認定している。
町村氏は会見で、「バグダッド飛行場には商業用の飛行機が多数出入りしている。本当に戦闘地域で、俗な言葉で言うと、危険な飛行場であれば、民間機が飛ぶはずがない」と反論した。
高裁判決は戦闘地域であるバグダッド多国籍軍武装兵員を輸送することは「武力行使と一体化する」とも指摘したが、政府は「そもそも非戦闘地域だし、武力行使と一体化するものではない」(町村氏)との立場だ。
(中略)
「それは判断ですか。傍論。脇の論ね」
福田首相は17日夜、名古屋高裁違憲判断への感想を記者団に聞かれ、こう語った。そして、空自の活動について「問題ないんだと思いますよ」と言った。
(中略)
民主党菅直人代表代行は17日の記者会見で「非戦闘地域の判断が、しっかりやれていなかった」と批判。そもそも「非戦闘地域を線引きできるという発想がおかしい」(幹部)との意見が民主党内では大勢だ。
(中略)
「空輸活動が武力行使になるのか」「インド洋の給油活動なども違憲になってしまうのではないか」。活動を続ける制服組は今回の判決にとまどう。ある自衛隊関係者は「判決に法的な効力がないなら活動にすぐに影響はないが、今後は政治で議論されるのではないか」と、判決の波及を懸念した。「活動を続ける隊員や家族がかわいそうだ」との声も漏れた。



自衛隊イラク派遣:イラク活動、一部違憲判断 「実質、完全勝訴だ」(毎日新聞 2008年4月18日(金))

(前略)
「司法はまだ生きていることを感じた。勇気のある判決だ」。04年2月の提訴から4年決後に開かれた原告団の報告集会で、内河恵一弁護団長は涙ぐんだ。
(中略)
原告団長で大学講師の池住義憲さん(63)は「憲法9条を持つ国に生きている人間として誇りを持って語れる判決」と喜び、「私たちの行動は今日から始まる。この判決を使って、どのように違憲行為を止めるかだ」と話した。
集会には原告の一人で元レバノン大使の天木直人さん(60)も参加。「法廷でこの判決を一字一句聞いた。一原告として元官僚として今日の判決は実質的な完全勝訴だ」とかみしめるように語った。
集会の会場には「画期的判決」「平和的生存権を認める」などと書かれた幕が張られ、弁護団が説明をするたびに、参加者から大きな拍手がわき上がった。山梨から原告団として参加した男性は「非常に感無量です」と涙声で語り、大阪から来た女性も「涙が出てとまらない。本当に参加してよかった」と話した。
(中略)
◇「画期的」「勇み足」−−専門家
今回の名古屋高裁判決について専門家の反応は「画期的」「勇み足」と分かれた。
浦部法穂(のりほ)・名古屋大法科大学院教授(憲法学)は「小泉元首相は『自衛隊が行く所が非戦闘地域』などと言っていたが、そうしたイラク特措法制定過程のごまかしを法的な観点から突いた論理的な判断」と評価した。
小沢隆一・東京慈恵会医科大教授(憲法学)も「イラク特措法が合憲だという政府よりの解釈をしても、自衛隊の空輸活動は違憲だとするのは画期的。政府は判決を厳粛に受け止め、反省してほしい」と評価した上で「差し止め請求自体が却下されているのは残念だ」と述べた。
これに対し、百地章・日本大法学部教授(憲法学)は「原告の訴えを退けながら原告の政治的主張を認めたねじれ判決だ」と批判。「自衛隊派遣は自衛隊の合憲性とともに国の存立にかかわる高度な政治的問題で、判決で国家の統治行為に踏み込むのは司法の勇み足であり支持できない。また国は上告できないため、最高裁の判断が示される機会が奪われており、違憲審査制度のあり方から見ても問題がある」と疑問を示した。
(後略)



イラク輸送違憲:政府は静観 海外派遣への影響懸念も(毎日新聞 2008年4月17日(金))


イラク輸送違憲:野党「当然の判断」と評価(毎日新聞 2008年4月17日(金))

航空自衛隊イラク派遣をめぐる17日の名古屋高裁違憲判断を受け、民主党菅直人代表代行は記者会見で、04年に小泉純一郎首相(当時)が「自衛隊が活動している地域は非戦闘地域」と述べたことに触れつつ、「インチキ答弁が裁判所によって否定された。法の趣旨から見て(違憲判断は)当然」と指摘した。
共産党穀田恵二国対委員長は記者団に「政府が言う『人道的支援』ではなく、イラク占領の実質的支援だったと明らかになった」と評価。社民党福島瑞穂党首も「国民の思いを裁判所が言ってくれた」と語った。



イラク輸送違憲:空自幹部「士気に影響出ねばいいが」(毎日新聞 2008年4月17日(金))

防衛省自衛隊では17日、名古屋高裁判決に驚きと失望の声が上がった。増田好平・防衛事務次官は「大変遺憾だが、今の時点で派遣を見直す考えはない」と強調した。
(中略)
空自幹部は「インド洋の給油活動に派遣された海上自衛隊の司令官が『憲法違反と言われた一国民として我々にも意地と誇りがある』と話していたのを思い出した」と残念そう。別の幹部は「現地の士気に影響が出なければいいが」と心配した。防衛省幹部は「(イージス艦衝突事故などの)一連の不祥事が沈静化しただけに、新たな国政の火種にならなければいいが」と話した。
(後略)



自衛隊イラク派遣:輸送違憲 政府「活動に影響ない」 「要件満たす」改めて表明(毎日新聞 2008年4月18日(金))

(前略)
これに対し、町村氏は17日の記者会見で「非戦闘地域の要件を満たしている」と改めて表明し、防衛省首脳は「戦闘地域とは違うに決まってるだろう」と不快感を示した。
(中略)
政府内からは「安全保障を分かっていない法律家の見解」との声も上がっている。
(後略)



自衛隊イラク派遣:空自イラク活動、一部違憲判断(要旨)(毎日新聞 2008年4月18日(金))


新聞各紙の社説。


社説:イラク空自違憲 あいまいな説明は許されない(毎日新聞 2008年4月18日(金))


社説:イラク判決―違憲とされた自衛隊派遣(朝日新聞 2008年4月18日(金))


社説:イラク空自判決 兵輸送は武力行使ではない(読売新聞 2008年4月18日(金))


【主張】空自派遣違憲判決 平和協力を否定するのか(産経新聞 2008年4月18日(金))


【社説】イラク空自違憲 『派兵』への歯止めだ(東京新聞 2008年4月18日(金))


社説:イラク派遣違憲判断/この重み受け止めなくては(河北新報 2008年4月18日(金))


社説:イラク空自違憲 高裁判断を無視するのか(新潟日報 2008年4月18日(金))


社説:イラク派遣 「違憲」判断の重大さ(信濃毎日新聞 2008年4月18日(金))


社説:空自派遣「違憲」 司法判断の意味は重い(中国新聞 2008年4月18日(金))


社説:イラク派遣違憲判断(宮崎日日新聞 2008年4月18日(金))