逐条点検 日本国憲法(東京新聞)

暮らしそのもの『国の基本』全103条


<第84条> 勝手に課税法で歯止め

あらたに租税を課し、または現行の租税を変更するには、法律または法律の定める条件によることを必要とする。

時代劇などで、地主や代官が勝手に年貢を重くして農民を困らせるシーンが、よく出てくる。権力側が、こんな理不尽な課税を行わないように、税金のことは国民の代表である国会が審議して決めると定めたのが八四条。これを「租税法律主義」という。
この考えは、一二一五年、英国王の権限を制限するためにつくられたマグナカルタ(大憲章)にさかのぼるといわれる。
「租税」とは、国や自治体が強制的に徴収するお金全般を指し、郵便、為替手数料なども含まれる。ただし、郵便料金は郵政民営化が実現すれば、「租税」から外れることになる。
憲法にも同様の条文があったが、例外規定もあり、勝手に重税を課せる余地が残っていた。現憲法では、この抜け道をなくした。
国会の最近の憲法論議では、この条文を改正しようという意見はほとんどない。
ただ、税制改正の決定権を握った国会議員は、しばしば選挙目当てで「減税圧力」をかける場面がある。また、一部の業界団体の利益だけを考えた税制改正をもくろむ国会議員もいる。これらは、八四条の考えを曲解しているともいえそうだ。
税制は、複雑多岐にわたるため、法律の条文だけでカバーするのは、実際のところ難しい。このため、この条文をめぐっては、行政への委任がどこまで許されるかがよく問題になる。
一九六八年、国鉄(現JR)が定期運賃を大幅に値上げした際、政府は国会の議決を経ずに運輸相(現国土交通相)の認可で行った。国鉄は当時、国有だったので、広い意味での「租税」に当たる。
このため、値上げに先立って行われた国会論戦では、「(憲法八四条に基づく)財政法の趣旨に沿わない」と異論が出た。これに対し、当時運輸相だった中曽根康弘元首相は「料金、使用料は行政権の範囲内だ」と説明した。